第4話

スタジオを施錠すると、目の前に止まった黒い車に気がつく




「雅人」




私は車に近づいてノックする。気づいた雅人は鍵を開けてくれた。助手席に乗り込むと、雅人は缶のココアを渡してきた




「お疲れ様。今日も大変だね。真穂センセー」




「お疲れ様。そっちはリハだったんでしょ?明日本番なのに、良かったの?」




「大丈夫だよ。しこたま踊り込んでる演目だし」




「さすがね。年の半分は舞台に立ってる人は違うわ」




「年の半分は言い過ぎだろ。ちゃんとうちのボーイズたちの指導もしてるよ」





雅人は同じ県にある小川バレエスタジオに所属しているバレエダンサーだ





同じコンクールで入賞して同時期に留学





私はフランス、彼はドイツだったが、バレエ団に就職した際、私はドイツに渡ったので、その時に再開し、仲良くなった





帰国後はいろんなバレエ団の公演に出演しながら、自分のスタジオの後進も育てている






帰国してからも、こうして会うようになり、付き合っている





「今年は何やるの?そっちの公演は」




「コッペリア」




「そっか」





演目を聞いて、雅人は何も言わなかった





一緒に踊るはずだったのあの演目の話はしない方がいい





雅人なりの気遣いを感じた





「スワニルダは?」




「カリンちゃん」




「なるほどね。この前の名古屋のコンクール、あの子2位だったしね」




「うん。彩子先生も、かなり目をかけていらっしゃるからまぁ、順当よね」




「上手いし、スタイルいいよね。和田バレエ団のスターダンサーじゃないか。まぁ、真穂と比べると若干感情表現が乏しいのが気になるけど。


テキスト通りというか。真面目な踊り?」




「昔はわたしもそう言われてた。コンクールダンサーって」




母親の目に怯えながら踊っていたあの頃は、国内コンクール上位の常連だったから、ネットとかではそう言われていた




私自身、楽しくなかったのだ

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