第9話

一方で玲蘭たちは5人でお昼ごはんを食べた後、駅まで歩いていた




そのとき、洋一の携帯が鳴る




「あ、もしもし。あ、今日、時間ある?わかった、行くわ」





洋一の電話をみんなでニヤニヤしながら見守る





「あー、もしかしてもしかすると、奈々ちゃんから電話ですか?」




「うるさいなぁ、さりなは。はいはいそうですよ。じゃあ、俺はこのへんで」




取り残された4人はしばらく固まる




内心2人きりになりたかった楓は次の瞬間、玲蘭の手を取り走り出した




「え、楓くん?」



「伊織、じゃあ俺ら行くわ」



「は?何勝手に...」




乗り出そうとした伊織の腕をさりなは掴んだ





「邪魔しちゃダメ!」



「玲蘭が楓になんかされたらどうすんだよ」



「いいじゃん。彼氏なんだから!」



「俺は認めてない!」





そんな伊織をよそに走り続ける楓と玲蘭




しばらくすると玲蘭の息が切れた




「か、楓くん待って、もう、走れないよ」





楓は慌てて振り向いて足を止める




「ごめん。2人で出かけたかったから、ちょっと無理矢理...伊織、五月蝿いし」



「ふふふ、たしかにね」



「でも、これで邪魔は入らない!スイーツでも、食べに行こうぜ」



「うん」




しばらく歩いて見つけて入ったカフェで、2人はパンケーキとそれぞれ飲み物を頼んだ。





「あの、奈菜美ちゃん?だっけ?従兄弟みたいだけど、伊織と仲良いの?」



「さぁ、名前くらいしか聞いたことないけど、同い年の親戚だし、悪くはないんじゃね?


たしか歌がすごく上手くてさ、小さい頃から声楽とかやってるって言ってたな」



「へー?声楽やってる人がバンド?」



「まぁ、ちゃんとプロ目指してる人はレッスン受けるんじゃないか」



「realizeはデビュー目指してるのかな?」



「さぁ、正直よくわからない。けど、全員めちゃんこ演奏上手いんだよね。1回観に行ったことあるんだけど、ギターの奴が上手すぎて、悔しくて帰ってからずっと練習した記憶ある」




「だからみんな、さっきライブ誘われて、あんまり嬉しそうじゃなかったんだ」




「まぁ、そうだろうな。特にさりなは」




「さりな?」




「なんか、あのrealizeのボーカル、伊織に気があるんじゃないかって、前にボヤいてたから」




「ふぅん...」



「まぁ、さりなは始終そんなことばかり言ってるけどな!」






2人はカフェでお茶をしたあと、ウィンドーショッピングを楽しみ、夕方になったら地元行きの電車に乗った。




電車の中でも、楓は何か考えごとをしてるような気がした玲蘭は声をかけた。




「疲れた?楓くん。」



「若干な。入学式で環境の変化もあったし。」



「いろいろ新しい出会いがあって、楽しいけど、複雑だね。Ailes de rêveのみんなにとってはライバル登場?みたいな感じだね」



「あっちはライバルとも思ってないかもしれないけどね」



「まだrealizeの演奏聴いてないけど、わたしにとってはAiles de rêveのみんなの演奏が一番だからね。だって、楓くんのギターの音、すごく綺麗だから...」





楓は立ち止まったから、玲蘭も立ち止まった





「楓くん?」




「玲蘭...」





楓は玲蘭の肩を持ち、顔を近づけた





玲蘭も目を閉じて楓を待つ






「おい!!!」





急な声に、2人は驚き、離れた





「何してんだよ」




伊織が現れて、玲蘭と楓の間に割って入る




「何って。」



「キスしようとしたろ!!!」



「でたよ、おじゃま虫」



「お前に玲蘭はやらん」



「伊織...」




玲蘭もため息をついた




「まぁ、邪魔が入ったな。また、明日」


「邪魔ってなんだよ!俺のことか!」


「他に誰がいるんだよ。おまえだろ。じゃあな、玲蘭。」


「うん、また明日ね」





楓が帰っていくオレンジ風景のなかの背中を玲蘭はしばらく見ていた




なんて寂しい時間なんだろう。




明日も会えるってわかってるのに。




玲蘭は見えなくなるまで見送った。




伊織はそんな楓に夢中な玲蘭に、なんとも言葉にできない怒りを感じながら先に家に向かって歩いて行った

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