第18話 赤い風船

私が小学5年生の頃の話になる。


私は、友達と地域の小さなお祭りに行っていた。


まだまだ子供だった私は、小さいお祭りでも楽しかった。


友達は色々と用事があるらしく、当時は思わなかったし、危なっかしいけど、一人でお祭りを見て回ることにした。


「そこのお嬢ちゃん、風船はいかがかな?」


お祭りの雰囲気にあまり合っていない感じのせいか、結構目立っていたピエロのお兄さんが、そう言って私に赤い風船を差し出してきた。


今の私くらいの度胸があるなら、「大丈夫でーす」的なことは言えただろう。けど、当時の私は結構周りに流されやすかった。





随分見て回った後、赤い風船を手に持ちながら、私は家に帰ることにした。


途中で見つけた友達とまだ回っても良かったのだが、何故かこの時、私は帰らなきゃいけない......そう感じていた。


黙って歩く。歩けば家に近づく。


何も考えることなく、ただただ歩いているだけだった私だが、公園の横を横切ろうとした際、一瞬だけ強い風が吹いた。


「あ!」


油断してたこともあって、左手で持っていた赤い風船は簡単に私の手から離れ、木に引っかかった。


「あれ、どうしよ」


今の私だったら絶対届く位置に風船は絡まっていたが、当時の私は全然背は高くない。木を登って取る......いや、そもそも木に登ったことなどない。


取れないなら、すぐに諦めて帰るのが普通だろう。それに、さっき貰ったばっかりの風船なんかに、特別な感情はなにもない。


それでも、私の中のそのままにしていいのか、という良心がそれを阻む。


少し、色々試してみた。


今だと何やってんだ? と思うが、石を投げたり、木の棒で突いてみたり......しかし、そう簡単には上手くいかない。


やはり諦めるか......そう思っていた時━━━━━━━


「何? 取れないの?」


私は、声のした方へと視線を向ける。そこにいたのは、私とあまり年の変わらなさそうな少年。


私が返事をするのに戸惑っていると、その少年は、とてもスムーズな動きで木を登り、引っかかっていた風船を取って降りてきた。


「ほら、これでいいだろ?」


そう言って私に風船を差し出す少年。


「ありがとう......」


私はそう言って、走って帰った。


学校の帰りだったのか、「八葉矢りゅうき」と書かれた名札とその少年の顔を脳に焼き付けながら━━━━━━





「━━━━━━ってな感じで、私と龍希は出会ったってわけ」


そう言って私は真波の方を見る。


「......なんか、軽いな?」


それ昨日私が夏季ちゃんに対して言いかけたことだから!!!


昨日の龍希と私のような反応をした真波だが━━━━━━


「でもまぁ、間宮さんが本気なのはわかったからさ。龍希のこと、惚れさせてやろうよ」


そう言って右手を差し出す真波。


「どっかの主人公かよ、全く」


私はそう言いながら、真波の差し出された右手を掴んで握手した。

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