第2話 ピアノの音色は兆しを呼ぶ2
俺は、木滝さんの横顔を見ていた。
ただ俺は、その横顔から滲み出る感情が「楽しさ」だけじゃないことが何となくわかった。
そんなことを思っているとこちらに気づいたのだろうか、木滝さんと目が合ってしまった。
「どうしたの、真波くん」
「え、ああ......」
気まずい、こうなるのは考えればすぐわかることだ。
さっさと弁当を買って立ち去るべきだったか.....
そう思っていながら、黙ってしまった。
「......無言ってことは、何も用、ないんだ?」
「いや、まぁ......そうだね......」
「......なんでここにいるか、わかる?」
「え?」
急な質問に俺はさらに緊張した。
さっきのこともあって気まずいのもあるだろう。
「こっち、おいでよ」
さすがに断ることは出来ないので、木滝さんの近くに行くことにした。
「だんまりだね?怒ってるって思ってる?」
「そりゃあ、何も言わずにじっと見てたし...」
「大丈夫、怒ってないよ」
そう言って笑顔を作る木滝さんの笑顔には、やはりどこか寂しげな様子がある。
そう思ってることを察したのか、木滝さんはこう言った。
「私のつまらない話、聞いてくれる?」
真剣な顔でそういう木滝さんの話だ、きっとなにかあるのだろう。
そう思った俺は、木滝さんの話を聞くことにした。
□
私、木滝雪は5歳の頃からピアノを始めた。
始めたきっかけは、テレビに映っていたピアニストの演奏だった。
最初は覚えが悪くて、何一つ上手くこなすことが出来なかった。
ある時期では、「もう無理だ、諦めよう」そう思ってしまったこともある。
だけど、その考えもあの演奏を思い出せばすぐに吹き飛んだ。
そうやって、努力して、努力して、何度も失敗しながら練習してきた。
その成果もあってか、いつしか『日本の期待』とまで呼ばれた。
けど、ある日を境に私はピアノを弾けなくなった。
とても大きいステージだった。
でも、緊張はしていなかった。
ただ、自分が積み上げてきたことをやればいいだけ、それだけのはずだった━━━━
失敗した、それも最後まで引きずる様なミスを......
演奏の途中で負けてしまったのだ、重い期待を含んだ大勢の視線に......
それから、私はピアノと向き合うのが、怖くなってしまったのだ......
□
「知ってた?私が元ピアニストだって」
「うん、龍希に聞いた。挫折してたって話は聞いてないけど」
「そっか、じゃあ真波くんだけしか知らないかもね?」
「さすがにそれはない気がするけど......」
今の話でわかったことがある。
勝手な推測だけど、多分木滝さんはまたピアノを弾きたいと思っている。
だけど、それは過去のトラウマのせいでできないのだろう。
なら、俺がすることはただ1つだろう。
「10月、文化祭があるでしょ?」
「え?うん、そうだね。それがどうかした?」
「文化祭の時、有志の活動があったはず。木滝さん、そこでピアノを弾いてみない?」
そう、やりたいことの道に戻す手助けをする、それが俺のやれることだ。
「いや、だって私......」
「文化祭までは2ヶ月くらいある。俺は、ピアノについてはよく分からないけど、できる限りサポートするよ。」
「......」
「ピアノ、弾きたいんでしょ?」
「......それはもちろん弾きたい、けど、またもし失敗したら......」
「さっきも言ったけど、俺のできる限りのサポートはする!やりたいことに挑戦する木滝さんを俺は見てみたい。だから、一緒に頑張ろう?」
「......そこまで......言うなら......」
そう、木滝さんは言うと、右手小指をあげてこう言った。
「最後まで、ちゃんとサポートしてね?」
俺は木滝さんの小指に小指を絡ませて言った。
「約束したからね、最後まで頑張るよ」
こうして、俺と木滝さんの関係は始まった。
.........あ、龍希のこと忘れてた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます