第2話 ピアノの音色は兆しを呼ぶ2

俺は、木滝さんの横顔を見ていた。


ただ俺は、その横顔から滲み出る感情が「楽しさ」だけじゃないことが何となくわかった。


そんなことを思っているとこちらに気づいたのだろうか、木滝さんと目が合ってしまった。


「どうしたの、真波くん」


「え、ああ......」


気まずい、こうなるのは考えればすぐわかることだ。

さっさと弁当を買って立ち去るべきだったか.....

そう思っていながら、黙ってしまった。


「......無言ってことは、何も用、ないんだ?」


「いや、まぁ......そうだね......」


「......なんでここにいるか、わかる?」


「え?」


急な質問に俺はさらに緊張した。

さっきのこともあって気まずいのもあるだろう。


「こっち、おいでよ」


さすがに断ることは出来ないので、木滝さんの近くに行くことにした。


「だんまりだね?怒ってるって思ってる?」


「そりゃあ、何も言わずにじっと見てたし...」


「大丈夫、怒ってないよ」


そう言って笑顔を作る木滝さんの笑顔には、やはりどこか寂しげな様子がある。


そう思ってることを察したのか、木滝さんはこう言った。


「私のつまらない話、聞いてくれる?」


真剣な顔でそういう木滝さんの話だ、きっとなにかあるのだろう。

そう思った俺は、木滝さんの話を聞くことにした。





私、木滝雪は5歳の頃からピアノを始めた。


始めたきっかけは、テレビに映っていたピアニストの演奏だった。


最初は覚えが悪くて、何一つ上手くこなすことが出来なかった。


ある時期では、「もう無理だ、諦めよう」そう思ってしまったこともある。

だけど、その考えもあの演奏を思い出せばすぐに吹き飛んだ。


そうやって、努力して、努力して、何度も失敗しながら練習してきた。

その成果もあってか、いつしか『日本の期待』とまで呼ばれた。


けど、ある日を境に私はピアノを弾けなくなった。


とても大きいステージだった。

でも、緊張はしていなかった。

ただ、自分が積み上げてきたことをやればいいだけ、それだけのはずだった━━━━


失敗した、それも最後まで引きずる様なミスを......


演奏の途中で負けてしまったのだ、重い期待を含んだ大勢の視線に......


それから、私はピアノと向き合うのが、怖くなってしまったのだ......





「知ってた?私が元ピアニストだって」


「うん、龍希に聞いた。挫折してたって話は聞いてないけど」


「そっか、じゃあ真波くんだけしか知らないかもね?」


「さすがにそれはない気がするけど......」


今の話でわかったことがある。

勝手な推測だけど、多分木滝さんはまたピアノを弾きたいと思っている。

だけど、それは過去のトラウマのせいでできないのだろう。

なら、俺がすることはただ1つだろう。


「10月、文化祭があるでしょ?」


「え?うん、そうだね。それがどうかした?」


「文化祭の時、有志の活動があったはず。木滝さん、そこでピアノを弾いてみない?」


そう、やりたいことの道に戻す手助けをする、それが俺のやれることだ。


「いや、だって私......」


「文化祭までは2ヶ月くらいある。俺は、ピアノについてはよく分からないけど、できる限りサポートするよ。」


「......」


「ピアノ、弾きたいんでしょ?」


「......それはもちろん弾きたい、けど、またもし失敗したら......」


「さっきも言ったけど、俺のできる限りのサポートはする!やりたいことに挑戦する木滝さんを俺は見てみたい。だから、一緒に頑張ろう?」


「......そこまで......言うなら......」


そう、木滝さんは言うと、右手小指をあげてこう言った。


「最後まで、ちゃんとサポートしてね?」


俺は木滝さんの小指に小指を絡ませて言った。


「約束したからね、最後まで頑張るよ」



こうして、俺と木滝さんの関係は始まった。


.........あ、龍希のこと忘れてた。

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