ピアノの音色は恋を呼ぶ

ばろんさん

第1話 ピアノの音色は兆しを呼ぶ

「......またか......」


夢を見た......

それも最悪な......そして、すぐにでも忘れたい現実の内容の夢だ。


自らの前で絶命する両親。

自らの行いに焦る加害者。


それがどうしても、脳裏に焼き付き、その記憶は俺の頭から消えない。


「......あー、学校めんどくせぇ......」




「よっ、相変わらず元気ねぇな、海斗」


「初っ端から失礼なこと言うな、このイケメンが」


初っ端から失礼なことを言い出すこのイケメンは八葉矢 龍希(八葉矢 龍希)。


腐れ縁だが、俺の唯一の友達だ。

そして、唯一『あの事件』について知っている人間でもある。


「お前、あの夢見たんだろ?ほんとに平気か?」


「当たり前だろ?何年も前からのことだ。もう慣れたよ」


嘘だな......

そういった呆れたような顔をした後、龍希は黙った。

それもそうだ、俺が同じ立場だったらそうする。

その沈黙は、学校に着くまで続いた。




学校に着いた俺は、何もすることがないのでボーッとするしかない。

本来なら、友達が絡みに来る。

それが普通なのだろう。

ただ俺には龍希以外の友達は居ない。


なら、その龍希は何をしているのか?

机に突っ伏して寝ている。


朝のHRまであと10分。

地味に長いので気が滅入る。


暇だなぁ......

そう思っていると、後ろから声をかけられる。


「おはよう、真波くん」


「ああ、おはよう、木滝さん」


声をかけられた......と言うよりかは、挨拶をしてきた、と言うべきか。

彼女の名前は木滝 雪(きたき ゆき)。

クラスのトップと言っても過言では無い。

龍希曰く、「日本一を取れるかもしれない実力を持っているピアニスト」らしい。


ただ、彼女はピアノに関係している部活や単元を取っている訳では無いので、疑問に思う。


「真波くん、顔色悪いけど大丈夫?」


「え?ああ、大丈夫大丈夫」


「そう?ならいいんだけど......」


会話は長くは続かない。

それもそうだ、クラスのトップと底辺。

それが当たり前なのだ。




「あ〜、やっと終わった!」


「お前ただ寝てただけだろ」


長い長い四限目の授業を終え、昼休みに入った。


なぜこいつは寝てても先生にバレないんだ?

そう思いながら俺は財布を取る。


「海斗、飯食い終わったら、今度こそお前の頭をぶち抜いてやるぜ、覚悟しな!」


堂々とゲームしようぜ宣言......

何言ってんだこいつ......

ただ、断るとは言わない。


「別にいいけど、俺弁当もってきてないからちょっと待ってくれ」


「あぁ、そりゃそうか。朝もあんな感じだったしな」


「そういうことだ、すぐ戻ってくる」


ここから弁当売り場までは少し遠い。

ただまぁ、すごい距離というわけでは無いので早足で廊下を歩いていく。


「〜〜〜♪」


弁当売り場がすぐそこまで......というところで、ピアノの音色が聞こえてきた。


「そういえば、音楽室ってここの近くだったな」


昼練習でもしている、そう結論付けた俺は弁当売り場まで行こうとするが、一瞬あるものが俺の視界に映った。


花壇に腰掛け、心地よくピアノの音色を聞いている木滝さんの姿だった。

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