第32話 青空
モモンガとウルは、会議に似た擦り合わせを終えると、モモンガの『外の世界を見てみたい』という提案に付き合うことになった。
モモンガさんが持つ『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の指輪を使い、地表部へと転移する。
時刻は正午を少し回った頃で、ウルとモモンガはここで初めて6時間以上も話し合っていたことに気付いた。
地表部へ繋がる階段をあがりながら、モモンガは一つの疑問を口にする。
「そういえば、ウルさんは人間種なのに、食べたり寝たりしなくて平気なんですか?」
「いんや、ダメですね。ただ、今日みたいに不測の事態に備えて、課金アイテムで睡眠不要の指輪と飲食不要の指輪に上書きしました…。あ、あと睡眠不要には疲労無効のおまけつきです」
「なるほど…通りで全く疲れが見えないわけですね…」
「まあ、実際には食べれる時は食べて、寝てるときは寝てるのでつけていない方が多いですね…。人間としての尊厳を失いそうで…」
「あー、分かります。私はアンデットなので、精神抑制とか入っちゃって…多分食事もできないだろうし…」
「うっわ…。なんか人間の心とかなくしそうですね…それ…。あれ、そういえばモモンガさん人化の指輪とか持ってないんですか?」
「それがもってないんですよ…、買っておけばよかったなー…」
「それなら一個上げますよ、私4個くらい持ってるので」
「えっ!!いいんですか!!…あ、でも悪いですよ…」
「なにいってんすか!俺とモモンガさんの仲じゃないですか!!」
ウルはモモンガの肩を軽く押すようにして叩き、アイテムボックスから取り出した人化の指輪を押し付けるようにして渡す。
「…でしたらありがたく頂きます…。お礼はどこかで…」
「お礼なんていいですよ…。まあ、どうしてもというなら、ナザリックのご飯、食べさせてくださいよ、実は気になっていたんです」
「おーいいですね。それでしたら後ほど食堂にでも行きましょう!」
そんな風にして会話をしていると、夢中になっていたようで階段などとうに上り終え、地表部のど真ん中にまで到達していた。
そして二人はようやく目の前にデミウルゴスがいることに気付いた。
少しずつ近づいてくる2人に気付いていたデミウルゴスであったが、2人の会話を邪魔しまいと待機していたのだ。
執事のような綺麗な会釈をして見せる。
「…デミウルゴス。ここで一体何をしているのだ?」
「はい、モモンガ様。昨日マーレが行ったナザリックの隠ぺい工作の状況把握をしておりました」
モモンガは、『そういえばお願いしてたわ…』と思いだしながら納得する。
「そうか。ご苦労」
「もったいなきお言葉です!…それにしても、モモンガ様は一体何を…ウルベノム様もご一緒のようですが…」
「うむ…。ちょっと外を見てみようと思ってな…」
「大変失礼ですが、共も連れずに…でございますか?」
デミウルゴスから、ほんの少しだけ不穏な雰囲気が流れる。
モモンガが少し戸惑っているのを見て、ウルベノムが一つ提案をする。
「そしたら、デミウルゴスも来るか?いいですかね、モモンガさん」
「ん、そ、そうだな。デミウルゴスよ、我らと共に来ることを許そう」
「多大なるご配慮、ありがとうございます。モモンガ様、ウルベノム様」
その後、モモンガとウル、そしてデミウルゴスは、飛行の魔法を用いてナザリック地下大墳墓の上空へと滞空する。
ウルベノムが転移後に感動をしたのと同時に、モモンガもまた、リアルでは感じられない素晴らしい豊かな自然に身を震わせていた。
「素晴らしい…なんて素晴らしい景色なんだ…!」
「ええ、わかります。私も、最初に感じたものは同じでした…」
どこまでも澄み渡る青空、煌くような日の光。そして穏やかな風と心地の良い気温。極めつけは、雄大な自然…。
「これは…一つの財宝だな…」
「ああ、間違いなくな…」
2人はそんな自然を堪能して見せる。
先ほどとは姿かたちを変えた、カエルの頭に翼が生えたデミウルゴスが、口を開いた。
「御所望とあれば、ナザリック全軍を以てしてこの財宝を手に入れて参りましょう…」
「ふっ!この世界にどのような存在がいるのか不明な段階で…か?」
「…それに、これは独占していいものじゃない…。そうは思わないか?モモンガさん…」
ウルの言葉に、モモンガはリアルの世界を思い出しつつ、ウルの気持ちを理解する。
また、先ほどの擦り合わせで決定した方針とも合致し、それを決断するに至る。
「そうですね…。この世界の皆で、共有したいものだな…。世界平和…ってのも悪くないかもしれんな…」
横で聞いていたデミウルゴスは、これでもかというくらいの衝撃を受けていた。
ウルはそれを横目でちらっと確認し、追い打ちをかける。
「ええ、弟に…ウルベルトに、友に誇れる世界にしたいな…。悪を憎み、悪を倒すために悪となった…そんなあいつのためにも…」
ウルは幼き頃のことを思い出す。両親が死んだ日のことである。あれから全てが変わってしまった。
兄弟互いに闇を抱えてしまった、あの時のことを。
それを思い出しながら、あからさまに中二病を発動させ、含みある言い方をしてみせる。
「悪を憎み、悪を倒すために悪となった…とは、い、一体どういう…」
デミウルゴスは酷く困惑していた。
ウルは、『あー、やっぱりなー…』などと思いながら、デミウルゴスに笑って見せる。
「機会があったら教えてやるよ…。それまでは、自分で考えてみな…あいつの、ウルベルトの悪…その本当の意味を…きっとお前になら理解できるさ」
「おお、なんと…。このデミウルゴス、必ずやウルベノム様のご期待にお応えできるように精進させて頂きます!!」
デミウルゴスは、本来であれば忠義を尽くす必要のないウルに深々と頭を下げる。
それを見たウルとモモンガは、『計画通り』みたいな顔をして見せるが、その顔にはどこかいたずら小僧に似た笑みが浮かんでいた。
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