第31話 擦り合わせ

モモンガさんが転移して来たことを知ったウルは、位置情報を頼りに『速飛行(ファースト・フライ)』を用いて目的地へと急ぐ。


速度にして、約時速300㎞/h。


新幹線を思わせる速度で飛行しながら、モモンガから齎された簡単な情報を思い出す。


・ギルド拠点ごと転移してきたこと。

・転移してきたのは1時間程度前であること。

・現状確認している中では全てのNPCが意思を以て行動し始めたこと

・ギルドメンバーは自分のみであること。


であった。


なぜ自分は身一つで、モモンガさんは拠点ごと移動してきたのか不明であったが、それを含めて詳しい話し合いをするため、ナザリックで落ち合うことにことにしたのだ。


そうして暫く飛行していると、地図や文献でしか知りえなかったが、リ・エスディーゼ王国とバハルス帝国の国境にほど近い『トブの大森林』近くに到着する。


モモンガとの物理的距離も近づいている。


そうして、特徴的な、この平野部にしてはあまりに不釣り合いな神殿のようなものを目にする。


間違いない。


ナザリック地下大墳墓の地表部である。


それを確認したウルは、墳墓の入り口、正面入り口近くにゆっくりと着地する。


前方を捉えるようにして視線を向けると、何やらメイド服を着た女性2人が目に入る。しかし普通のメイド服ではなく、どこか鎧のような様相を見せる、特徴的ものであった。


ゆっくりと顔を確認する。


「お待ちしておりました」


「ウルベノム・アレイン・オードル様」


…見覚えのある顔であった。


1人は黒髪で、一つに縛ってポニーテイル。

1人は金髪で、縛ってはいないが凄まじいカールを描いている。

そして共通することは、2人とも女性であり、洗礼された美人であるという点。


自分は知っている。ゆっくりと目の前の呟く。


「…ナーベラル・ガンマに、ソリュシャン・イプシロンか…」


ウルの発した言葉に、2人は大きく目を見開く。


「私達如きの名を…」「ご存じであるとは…」


「当たり前だ…弐式炎雷とヘロヘロとは苦楽を共にした仲だからな…2人のことは散々聞かされたもんだ…」


ウルの言葉に、2人は酷く感銘を受けている様子であった。


だが、暫くして2人は平常心を取り戻した様子で、ウルをじっと見つめる。


「…本日は、ウルベノム様のご案内を仰せつかっております」


「至高の41人が一人、モモンガ様がお待ちです」


ウルは一瞬、至高の41人?と疑問を抱いたが、今はそんなことを考えている場合ではないと、思考を一時中断する。


「ああ、よろしく頼むよ」


返答を貰ったところで、ナーベラルとソリュシャンは、事前に用意していたであろうゲートへと、ウルを案内する。


ウルは一呼吸置いた後、紫色に渦巻くゲートに向かって、その身を委ねた。




ゲートを潜り抜けたウルは、もう見飽きるぐらいに見た第十階層玉座の間の扉に降り立った。


誰が何をしたわけでもないが、ゆっくりとその扉が開かれる。


ウルは小さく目を見開く。


やはり同様に見慣れた、ナザリックの玉座の間であるが、そこには不思議と新鮮味があった。


玉座の間の奥を見ると、遠目ではあるが、見慣れた不死者の王とNPCと思われる配下が見て取れた。


ゆっくりと歩みを進める。


ユグドラシルが衰退し、ログインするプレイヤーが減っていく最中、自身と同じくほぼ毎日ログインしていた人物。


次第に遠目で捉えていた不死者の王の姿が大きく、鮮明なものになっていく。


玉座がある台座…そこから適切な距離をもってして、ウルは歩みを止める。


そして再び不死者の王をその瞳に捉える。


少し目が潤むのを感じる。


不死者の王も、値踏みするように自身を見つめているようであった。


「ウルさん…」


モモンガはゆっくりと玉座から立ち上がると、数段しかない階段を一つひとつ降りる。


「モモンガさん…」


ウルは、そんな不死者の王、モモンガが目の前に来るまでじっと待ち続ける。


「…再び…会えてよかった…」


「こちらこそ…会えてよかった…」


2人は互いに感動に身を震わせながら、長い握手を交わして見せた。





「あー、やっぱり異世界なんですね…ここ」


「ああ、それは間違いないと思うぜ…」


モモンガとウルは、熱い握手を交わした後、その場にいる階層守護者とプレアデス達から涙混じりの祝福を受けた後、2人で話がしたいと伝え、今は第九階層にあるモモンガの私室にて会話を進めている。


ウルは、モモンガとこの世界についてすり合わせを行うようにして会話を進める。


といっても、モモンガはこの異世界に来てからまだ半日も経っておらず、どちらかというとウルが一方的にこの世界について伝え、モモンガがそれを聞くという形であった。


「じゃあ、ウルさんは今はローブル聖王国っていう場所にいるんですね」


「そそ、冒険者してるよ!」


「なっ!ずるい!!いいなー!!」


「へへ、いいだろー!!」


ユグドラシル最終日に、ゆっくりと話せなかった分、この上なく話が盛り上がる。


「それにしても、なんでウルさんは1人で転移してきたんですか?」


「知らんがな…俺が聞きたいくらいだよ」


「ああ、そりゃそうですよね…」


「…ていうかさ、NPCの忠誠心やばくない?あれ…至高の41人とか言ってたし…あれ、モモンガさんがいわせてんの?」


「そんなわけないじゃないですか!!勝手に崇めたてまつられてるんですよ!!!」


「いやー、あれを見て、NPCの設定を盛り込んだのは正解でしたよー」


「?どういうことですか??」


「あー…この世界に来て一人はさみしかったんで、従者の宝玉を使いました」


「えっ!?ワールドアイテムの!?二十ではないけど、あの使い切りの!?」


「そうです、そうです。いや、もう使いどころないかなと…それにうちのギルドが持っているワールドアイテムの中では一番効果が薄いものなので…」


「効果が薄いって…ポイント消費せずに100レベルポイント追加されるんですよ!?破格の性能じゃないですか!?」


「まあ、ユグドラシル時代はね?でも今はもうそんな別にいいかなーって。俺一人だし、まだ二個あるし…」


「ま、まあ、確かにそうかもしれませんけど…」


こうして話は進んでいく。


他にもこの世界にある国やら、地形、宗教、情勢などなど、この一か月でウルが知りえたあらゆる情報をモモンガに伝える。


そして最終的に話は、この世界で何を為すかということになり、2人で議論を進めていくのであった。


…それが、ナザリックの方針として根強く浸透していくのは、もう少し先のお話…。

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