第30話 守護者たちの解釈

アルベドは、モモンガを除く至高の41人に対し、深い憎悪を抱いている。


このナザリック地下大墳墓を捨て、我々を捨てた。


そしてなにより自身が敬愛するモモンガ様を悲しませた元凶である。


モモンガ様が一人、玉座に座り、悲しみに打ちひしがれている姿を何度も見てきた。


しかし、そんなモモンガ様が唯一、楽しそうに、嬉しそうにしている時間があった。


そう、ウルベノム・アレイン・オードル様と一緒にいらっしゃるときである。


人間種でありながら、モモンガ様がお心をお許しになられたお方。


心を許すだけでなく、そこには尊敬の眼差しと感情まで感じられたのだ。


このお方だけは、モモンガ様を見捨ててはいない。


そう思っていた。


そして、やはりそれは間違っていなかったのだ。


ナザリック地下大墳墓が異世界に転移したと知ったあの時…。


ウルベノム様もこの異世界に転移していた。


そして、このナザリックに向かっているというのだ。


モモンガ様を最後まで見捨てずにいてくれたお方。


しかし、先のモモンガ様のお話を聞いて、ウルベノム様に対する思いはさらに大きいものへと変わった。


それは、他の守護者やNPCも同じであると確信している。


今この玉座の間には、各階層守護者とセバス、そしてプレアデスのみがいる状態である。


他のものは皆、ウルベノム様をお迎えするための準備に取り掛かっている。


もちろん、ここに私たちもそれを為さねばならないが、先のモモンガ様のお話が、あまりにも衝撃的過ぎて、こうして互いに確認しあわなければ落ち着かないほどに高揚しているのである。


しかし、恐らくではあるが、その高揚感を最も感じているのは私ではない。


そうして思考を張り巡らせていると、このナザリックのおいて最も感動と感嘆に打ちひしがれているであろう人物が口を開いた。


「まさか…まさかウルベノム様が…あの1500人の大侵攻に立ち向かわれていたとは…。私はそんなことも知らずに…」


デミウルゴスは、メガネの奥で宝石の瞳をギラギラとさせている。


今にも泣きだしそうな雰囲気であった。


「私、恐れ多くもとても感動したでありんす…。至高の41人であらせられる御方々のために、たった一人で…それも我々守護者よりも先にあの大侵攻に立ち向かわれていたなんて…」


「うぅ…ぼ、僕もシャルティアと同じ気持ちです…」


シャルティアの言葉に、同意を見せるマーレは、すでに泣いていた。


「モモンガ様の話では…ウルベノム様がナザリックの地表部で戦われていなかったら、アインズ・ウール・ゴウンは敗北していた可能性があるっていってたよね…」


「ええ、132人ものプレイヤーやそのNPCを倒した…。それはつまり、ナザリックに侵入するはずだった愚か者が、本来ならあと132人もいたということね」


「カンシャナドトイウコトバデハ、トウテイコトタリナイ…」


アウラとアルベドの言葉に、コキュートスが小さく呟く。


暫し沈黙が続く。


「私としては、御方々がおられるリアルで、弐式炎雷様と幼き頃から共に育ってきたことと、へロへロ様と共にお仕事をされていたということにも驚きました」


「そうだね。モモンガ様や他の至高の御方々以上に深いかかわりがあったというのだから…私も本当に驚いたよ」


「…大変不敬かもしれませんが、私、お許しが出るのであれば、是非ともお話をお聞きしたいと思っております…」


「私も…ナーベラルに同じでございますわ」


セバスとデミウルゴスの会話に、耐えきらないといった様子で、プレアデスのナーベラルとソリュシャンが会話に加わる。


「…ウルベノム様は、至高の41人の御方々と名を連ねているわけではないけれど、私としては、同じように忠義を尽くすべきだと思うのだけれど…デミウルゴス、あなたはどう考えているのかしら?」


「もちろん、そのようにすべきだと思うね。これは私をお作りになられたウルベルト様の兄君という点を除いたとしても、ナザリックにおいてウルベノム様は、恐れ多くも我々が忠義を尽くすに値すると思っているよ…。それに、モモンガ様は我々にそれを気付かせるために、このお話をされたと、私は考えている」


アルベドの言葉を肯定しながらも、デミウルゴスは他の守護者たちに投げかけるように言葉を紡いだ。


「ソレハドウイウコトダ…デミウルゴス…」


コキュートスは、デミウルゴスに疑問を投げかける。


「ふむ…。ウルベノム・アレイン・オードル様は人間だ…。そこに、全ての答えはあると考えている」


「そ、それはどういう意味でありんすか?」


シャルティアが理解不能と言った様子で疑問を投げかける。


「シャルティア、もし君がモモンガ様から齎されたお話を聞いていないと仮定してほしい。その状態でウルベノム様が、ナザリックに足を運んでくださっていたら、どう対処するかね?」


「…大変恐れ多くも、侵入者として攻撃していた…でありんすね…」


シャルティアは、デミウルゴスの質問に、嘘偽りなく答えた。


「そうだね。シャルティアだけではない。ここにいる多くが、ウルベノム・アレイン・オードル様を敵とみなしていただろう。敵とみなさずに攻撃を仕掛けないのは…そうだね、アルベドと私、セバスくらいなものだろうね…」


デミウルゴスは、メガネをくいっと上げて言葉を続ける。


「そうなれば…ウルベノム・アレイン・オードル様がお怒りになるのは火を見るより明らかだ…。それを防ぐために我々にお話をされたのだと思うよ…それに…」


「…まだ何かあるというのですか?」


セバスが含みあるデミウルゴスの言葉に、違和感を覚える。


「我々を試していたのだよ…モモンガ様は…」


「た、試すって何をさ…」


アウラが酷く困惑した様子で口を開く。


「ウルベルノ様にあれだけの恩義を賜ったにも関わらず、人間種というだけで我々が嫌悪感を抱くのかどうかを…もし我々の中に、ウルベノム様を不快だと感じるものがいれば…」


デミウルゴスは一呼吸おいて、低く唸るような声を出した。


「モモンガ様は我々に失望し、このナザリックを去る決断を為されるおつもりだった…」


デミウルゴスの言葉に、アルベド以外のその場にいるもの全員の顔が青ざめる。


「ま、まさかそんな…」


「で、では…私達は…」


マーレとセバスは酷く困惑した様子で何とか口を開く。


「デミウルゴスのいう通りだわ。モモンガ様は試されたのよ。このアインズ・ウール・ゴウン、ひいては至高の41人であられる御方々への忠誠心を…」


「御方々が友と呼ぶお方…それはつまり、御方々にとってかけがえのない存在であらせられる。そんなお方を、種族のみで判断し無下にする…そのような愚か者がいないかをお確かめになられたのだよ」


デミウルゴスは、確信をもって、この場にいるものに宣言するようにして言葉を発したのであった。

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