第28話 モモンガ
この日…夕方から日没に至るまで間、聖王国とリ・エスティーゼ王国では、ものすごいスピードで飛翔する、銀光にも思える流れ星のようなものが観測された。
だが、流れ星にしてはあまりにも地表から近く、流れ星にしてはあまりにも煌びやかな光をしていた。
この光は、特にリ・エスティーゼ王国各地で観測され、これを調べる貴族や冒険者がいたが、それが何であったかを知ることはできなかったという。
ナザリック地下大墳墓。
ユグドラシルにおいて、アインズ・ウール・ゴウンというギルドが拠点としている、地下10階層にも及ぶ巨大な墳墓である。
さて、そんなナザリック地下大墳墓であるが、現在原因不明の事態に陥っていた。
それに唯一気が付いたのは、アインズ・ウール・ゴウンでただ一人、サーバーダウン予定時刻までログインをしていたモモンガであった。
サーバーダウン時間になってもログアウトせず、ゲームでは感じるはずのない感覚、そして、NPCたちの自我を持った行動。
そして先ほどとあるNPCから齎された、ナザリックの周りの地形…。
モモンガが出した答えが、ナザリックごと異世界に転移したというモノであった。
だが、それ以上の驚きがモモンガを襲うことになったのだ。
階層守護者というNPCの忠誠心を確認するため、第六階層にある闘技場にいたときにそれは起こった。
GMコールを始め、ギルドメンバーへ伝言を送るものの、繋がらない。
異世界へ転移してきたプレイヤーは自分だけなのかもしれないと考えたそのときであった。
最後の確認としてフレンドにたいして伝言を行った際、一人だけ、それもギルド外のプレイヤーで一番アインズ・ウール・ゴウンと関りの深かった人物と繋がったのである。
伝言が繋がり、会話ができた際には酷く困惑したものである。
つい2時間前くらいにチャットのやり取りをしていたにも関わらずだ。
すぐさま簡単な現状の確認と、合流の約束をこぎつける。
位置情報の共有システムが生きていたため、モモンガは自身の位置をウルに共有する。
ウルの話だと、4,5時間程度で到着するとのことであった。
それを聞いたモモンガは、とりあえずは闘技場に集めた階層守護者と顔を合わせた後、守護者統括であるアルベドに指示を出す。
ナザリックの可能な限りのNPCの全てを玉座の間に集めよというモノであった。
モモンガは、まだウル…いや、ウルベノムがこの異世界にいることを誰にも伝えてはいない。
伝言が繋がった時に近くにいたアウラとマーレというNPCは、自身が召喚した精霊との模擬戦闘中で聞こえていなかった。
故に、アルベド含め、他の階層守護者からすれば、ナザリックのほぼすべてのNPCを集めなければならない事態が起こっていると判断せざるをえなかった。
しかし、これはモモンガにしてみれば好都合であった。
なぜなら、ナザリックのNPCたちがウルベノムさんに対して好意的でああるかが不明であったからだ。
自身やほかのギルドメンバーであれば、すでに心配する必要性は薄いことが分かったが、いくらアインズ・ウール・ゴウンと最も交流のあった人物とは言え、安心することはできない。
…先の階層守護者との会話で、『人間について』質問したところ、それはもうゴミだのカスだの、価値がないだのとものすごい言われようだったのだ。
そう…。ウルベノムさんは人間種なのである。
ユグドラシルの種族のままモモンガはこの異世界に転移してきた。
とするあらば、ウルベノムさんも同じように人間種のまま転移している可能性が高い。
もし、人間種であるウルベノムさんがナザリックに入り、守護者たちが攻撃を仕掛け、ウルベノムさんを怒らせてしまったら…と思うと、モモンガはアンデットであるはずなのに、身体が震えるような感覚を思い起こさせる。
彼を敵に回せば、ナザリックに未来はない。
いや、勝敗だけで言えば、ナザリック勢とモモンガの勝利で終わるだろう。
しかし、それは勝てるだけであり、ウルベノムさんが本気でナザリックに攻めてきた場合、おそらくギリギリ第8階層に到達されるかされないかで侵攻は止まるであろう。
ちなみに、たった一人で、である。
そうなれば、例え勝利したとしても、ナザリックを立て直すのには膨大な時間がかかる。
それどころか、ナザリックが崩壊する可能性の方が高いからだ。
故に、モモンガは決断する。
解消守護者はじめ、NPCがウルベノムさんをどう思っているのかを、そして、ウルベノムさんのことをどこまで知っているのかを…。
ウルベノムさんがナザリックに到着するまで、時間的余裕はあまりない。
嬉しさのあまり、すぐに会うことを決めたのは早計だったと反省する。
しかし、ウルベノムさんはモモンガにとって、憧れの存在であり、加えて最後までユグドラシルを見届けた、唯一の友なのだ。
モモンガが家族のように思っているギルドメンバーとも繋がりが深い。
中には、自身と比較にならない程、親密なメンバーもいる。それこそ、公私共にリアルで定期的に会っているくらいである。
…恐らく、階層守護者のあの忠誠心を見るに、伝える内容によっては、嬉々として喜ぶNPCもいるだろう…。
モモンガは、NPC達に伝えなければならないことを、一つひとつ丁寧に確認しながら、玉座の間への向かうのだった。
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