第3章 ナザリック地下大墳墓
第27話 反応と驚愕
ウルの転移からおよそ一か月。
ローブル聖王国において発生した悪魔の襲来と亜人悪魔連合による侵攻。
それをたった一人の冒険者が仕留たという話は、隣国であるリ・エスティーゼ王国を始め、アベリオン丘陵を挟んで接するスレイン法国やアークランド評議国、竜王国などにすでに届いていた。
加えて、その後ギガントバジリスクとリトルファイヤードラゴンを、これまた単騎で討伐し、アダマンタイト級冒険者になった報も巡る。
聖王国史上初のアダマンタイト級冒険者誕生に加え、登録からたったの一か月でアダマンタイトまで上り詰めるという、偉業は、各国の要人にただならぬ衝撃を齎した。
リ・エスティーゼ王国、王城の一室。
ローブルの至宝と肩を並べる美しさに加え、民を思う慈しみに溢れる黄金の姫と謳われている王国の第三王女、ラナー。
彼女は側近のまだ少年の域を出ない男性に、美しい微笑を向けながら口を開く。
「クライムっ!聖王国でアダマンタイト級冒険者様が誕生したらしいわっ!」
「はい、ラナー様。なんでも、強大な悪魔をたった一人で打つ倒したとか…!」
「クライムの大好きな英雄さんですねっ!」
バハルス帝国、帝都アーウィンタール。その帝城の一室。
そこでは現皇帝であるジルクニフと主席宮廷魔術師であるフールーダが一枚の報告書を持ちながら話をしていた。
「じい、この報告、どう思う?」
「そうですな、情報の出どころは信用できるものかと」
「ふむ…。して、この広域中傷治癒魔法というのは…?」
「それは第二位階の中傷治癒魔法を、一定の範囲内に複数のモノに適応させる、いわば範囲治癒魔法ですな!第五位階の魔法となります!!」
フールーダは、酷く興奮した様子で、ジルクニフとの会話を続けていた。
アークランド評議国、その一室に、伏せるようにして眠る大きな竜がいた。
「白銀の聖騎士、ウルか…。ぷれいやーの可能性は高い…」
少し頭を上げ、ゆっくりと目を開く。
「今のところは、この世界の利になる存在のようだね…」
だが、すぐに頭を下げ、また目を瞑る。
「でも、まだ暫くは様子を見る必要がありそうだね…」
スレイン法国。6人の神官長といわれる存在が、テーブルを囲んで会議を執り行う。
「…例えば、この報告書にある偉業を、たった一人で漆黒聖典は成し遂げらるかね?」
「ふむ…これが本当だとするのであれば、番外席次の絶死絶命か第一席次の隊長なら可能だろう」
「殲滅戦だけ見れば、第五席次の一人師団でも為せるか…」
「どちらにしても、人類の守り手たる力を持つことに変わりはないな…」
「報告書の信ぴょう性は高いが、一度隠密隊を向かわせ調査する必要もあるな」
「だが、ここは慎重に動くべきだと思うぞ」
6人の神官長たちは、一つひとつ今後の方針を決定していくことになる。
竜王国。
そこにいるのは、自身の姿形を変えることのできる女王がいる。
その女王は、宰相の男性に向け、大声で文句を垂れる。
「なぜじゃ!なぜ我が竜王国にこのウルは来なかったのじゃ!!」
「なぜと申されましても…」
「我が国にこそ必要であろう、かような力を持つものは!!」
「…聖王国にも必要ですよ」
宰相の男は、幼女の姿で酒をかっくらう女王を見て、大きくため息をついた。
カリンシャの街。その中に建っているとある屋敷…。
「ウル、出掛けるの?」
腰まで伸ばした黒い髪に、メイド服を身に纏った非常に美しい女性が、抑揚なく口を開く。
「ルカか、ちょっと街を色々見て回ってくる」
「そう…」
ルカは、特に気にした様子もなく外出の準備をするウルを見守る。
「あ、まってウルさん」
すると、大広間の奥からもう一人の女性が現れる。
髪の色は金髪。肩まで伸ばしていることが伺えるが、その髪の毛から特徴的なとがった耳が見て取れる。
「ん?どうした?クルミ」
「ちょっと買ってきてほしいものがあるの」
ルカとは違い、意気揚々とした口調でしゃべって見せる。
クルミもルカと同様にメイド服に身を包んでいる。
「んー、おっけー。わかった」
「ありがとう、ウルさん!」
カラっと笑って見せる。
「じゃあ、留守番頼むわ」
「気をつけてねー」
「いってらっしゃい…」
ウルは2人の言葉を背中に受け、街に繰り出していった。
さて、ウルの評判はもはやカリンシャの街において話題にならない日はないほどであった。
カリンシャを救った英雄としてはもちろん、先日のアダマンタイト級冒険者の昇格とのお触れもあり、話題は尽きることはない。
加えて、強大な力を持つものとは思えぬ、慈しみを持った人望と優しさと誠実さ。
子どもと遊ぶ姿や、老婆の荷物を運ぶ姿、転倒した妊婦への配慮と手助け、その他の住民や冒険者たちとの関り。
悪い噂など、一切流れてこないのである。
そして何よりも、その美しい顔立ち…。
老若男女とわず、ウルの魅力に魅了されているのだ。
加えて、最近見かけるようになった、ウルの屋敷にいるメイド2人。
やはり類は友を呼ぶとはよく言ったものだと言わんばかりの美女であったのだ。
これが街にいる男たちに刺さらないわけはなく、ルカ派とクルミ派の二つの派閥に分かれて、日々論争が起こっているほどであった。
クルミから頼まれた買い物も済ませ、屋敷に戻ったウルは、屋敷の中で一番大きな部屋に入る。
ウルはここを執務室(本を読んだりするだけで特に仕事をするわけではない)としていた。
街の本屋で買い漁った本を、無限の背負い袋からだし、見るからに高そうな執務台へ並べていく。
勿論文字はこの異世界特有のモノであり、ウルは片メガネのような形をしたメガネがなければ読むことはできない。
しかし、それを酷く煩わしく思ったウルは、『星に願いを』が込められた指輪を用いて、『あらゆる言語を理解できるように!』とお願いを口にしたのだ。
最初からこうすればよかったのだが、それは今更の話である。
さて、ウルがこの世界に来てから最も驚いた…というより冷静さを失ったのは、弟が作った悪魔像をアベリオン丘陵に置き忘れたことに気付いた時である。
そして、今日は、その最も驚いたことを更新する日となる。
それは、パラパラと本を流し読みしている際に起こった。
一瞬、伝言を受け取る音が脳内に流れ、『カルカ様かな?』と思ったのも束の間…。
脳が伝言の送り主を自動的に認識すると、持っていた本を投げ捨て、すぐさま右手を耳元に充てる。
…ここまでの時間、およそ1秒。
そして、伝言を許可する。酷く狼狽した様子で、通話を開始する。
「モ、モモンガさんなのか!!!!!?????」
『ウルさん!!!いや!!!!そんなまさか!!??』
声だけで、相手方も酷く驚いた様子で、困惑しているのが分かった。
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