第26話 従者の宝珠
首都ホバンスにて朝を迎えたウルは、途中、ホバンスとカリンシャの間にあるプラートで一夜を明かした後、カリンシャへ帰還した。
屋敷が下賜された話は、兵士団団長のユーゴや高級宿屋の主人にも伝わっており、少ない荷物をまとめ、その屋敷へと向かった。
城の従者に屋敷の前まで案内された後、ウルは暫く立ち尽くした。
広大な庭に、まるでヨーロッパの豪邸を思わせるその屋敷に目を奪われたのだ。
暫くして冷静さを取り戻し、屋敷内へ入る。
煌びやかな屋敷内は、清掃が行き届いているだけでなく、家具や生活用品が一通り揃っていた。
下賜するにあたり、必要以上の準備がされていたらしい。
屋敷の正面に入ってすぐにある、一階の大広間。
端のソファに身を預け、大きくため息をつく。
自身が動きを止めたことで、屋敷内はひどく静寂に包まれる。
ウル以外、誰一人としていないからである。
「こんのバカでっかい屋敷に俺一人か…まずは、メイドさんを雇うところからか…」
1人暮らしをしていた際の、1Kの小さな部屋でさえ、掃除、洗濯、洗い物など、家事全般面倒くさくて大変だったのだ。
こんな全部で30部屋以上もある屋敷では、それはそれは大変なものになることは想像に難くなかった。
「雇うにしたってなー…。一体どこでどうやって…」
そんな風にして考えていると、あるアイテムについて思いだすに至った。
「…あれ、使ってみるか?…もうこの機会を逃したら、使う場面なんてないしな…」
ウルは無限の背負い袋の中から、とあるアイテムを取り出す。
ワールドアイテムの、『従者の宝珠』であった。
効果はいたってシンプル。レベル値100を上限に、自作NPCを作れるというモノであった。
シンプルである分、強力なアイテムであった。
ワールドアイテムであるため、強力なのは言うまでもないが、これはギルド拠点なしに且つNPC製作ポイントを消費せずに作れるのだ。
分かりやすく言えば、NPC製作レベルポイントを+100できるアイテムである。
光り輝く丸い宝珠を、小さな女性の人形が抱えている、そんな形をしたワールドアイテム。
…些少の迷いが出る。
これは、かつての仲間たちと苦楽を共にする中で手にいれたワールドアイテムである。
本来なら、一個人の意思で使用してよいものではない。
…だが同時にその思考を中断させるに至る。
「まあ、もはや…だな。残ったのは俺だけ…使うか決められるのも俺だけ…か…」
ウルは、過去の煌びやかな思い出にゆっくりと蓋をしながら、ワールドアイテムである『従者の宝珠』を発動させた。
結論から言ってしまえば、2体の…合わせてレベル100となるNPCを作成した。
レベルを全振りで、一人だけ作るという手段もあったが、悩んだ挙句に先の選択を採用した。
1人目のNPCの名は『ルカ』。種族は人間。
髪は黒髪で、腰まで流している。
カルカに似た顔立ちだが、より美人(絶世の美女)。
性別は女。年齢は19歳。身長170㎝、体重50㎏。
カルマ値は150。冷静でクール。この世で最上位に位置するほど(デミウルゴス並)の頭の良さ。
レベルは58で戦士職。短剣と弓矢を主な武器としている。
ウルに対して敬称をつけることなく、対等以上に振舞う。ウルを牽制したり、怒ったりすることをしばしば。
メイドとしては他に追従を許さないほどの優秀っぷりであり、他にも農作業や花の手入れなど、貴族が好むような嗜みも心得ている。
かつて、とある事件によって死に際をさ迷っていたところ、ウルによって助けられ、仕えるようになる。
2人目のNPCの名は『クルミ』。種族は半森妖精。
髪は金髪で、肩まで流している。
ルカ程ではないが、美少女。
性別は女。見た目の年齢は17歳(実際は100を超える)。
身長150㎝、体重39㎏。
カルマ値は50。明るい性格。ちょっとアホの子。
レベルは42で魔力系魔法職。第六位階までの魔法を扱う。
ウルに対して『さん』と敬称をつけるが、対等に振舞う。
メイドとしてはルカには及ばないが、優秀。
かつて、奴隷となりそうなところをウルによって助けられ、仕えるようになる。
と、色々と設定はしたものの、本質は上記の内容で作成した。
ウルは、心のどこかで対等に話ができるものを求めていたこともあり、それ設定として盛り込む。
これには大きな理由があり、異世界に転移したことで、NPCの行動にも自由度が増し、意思すら持つのではないかという懸念による対策であった。
ウル様ウル様と付きまとわれてしまっては、たまったものではない。
衣装に関しては、仕事で付き合いのあったヘロヘロが、ナザリックの一般メイドなるNPCを作った際に考案したメイド服があったため、それを急ごしらえで充てる。
正味6時間くらいはかかったであろうか。
何度か設定し直し、作り直し、書き直しては、現状での自身の理想となるメイドを作り上げていった。
そうして製作し終えると、まばゆい光と共に、先ほどまで頭を悩ませながら作り上げた2人が姿を現す。
こうして目の前に現れた2人は、長い間、ウルの心の拠り所となり、支えていくことになる。
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