第25話 伝言の指輪

首都ホバンスにて行われた祝典と、カルカ王女との面会が終わった後、晩餐会に参加し、そのまま宮殿で一夜を明かした。


カルカ王女の兄であるカスポンドや、大貴族の方々、大臣等との挨拶も兼ねた晩餐会は盛り上がりを見せた。


そんな中、晩餐会でもカルカと会話をする機会があった。


面会時の酷い緊張は見られず、比較的普通に会話できるようになってた。


その折、ウルはとあるマジックアイテムをカルカに渡すに至る。


「『伝言の指輪…』ですか?」


カルカは、ウルから渡された指輪を掌で受け取ると、もう一方の手でつまみ上げてそれを見つめる。


「ええ。伝言は不明瞭なことが多く、あまり使用されていないと聞きました。この指輪は、その不明瞭さがなくなり、より遠く離れていても通話ができるというマジックアイテムになります」


「そ、そんなマジックアイテムが…」


ウルの説明を聞き、カルカの隣にいるケラルトが驚いた様子で呟く。


「こ、このような貴重なものを…頂いてしまってよろしいのですか?」


カルカは非常に困惑した様子であった。


「ええ、もちろんですよ。いくら友達になったとはいえ、会う機会もそう多くはないと思いますし…(んー、ユグドラシルだとゴミアイテムなんだけどな…)」


「確かに、毎日会えるわけではありませんものね…」


カルカの言葉に、ウルは思わず『え、毎日会うつもりだったの?』と少し顔が引きつる。


「ほう…なあ、ウル、それあたしにもくれよ」


「ちょっと、姉さん!」


貴重なマジックアイテムを見て興味を示したのか、レメディオスがズカズカと不躾なことを口走る。それをケラルトが止める。


「あー、申し訳ありません。レメディオスさん…。これ、一つしかないんですよ」


「むぅ…であれば仕方がないか…」


「姉さんは遠慮ってものがないんですか…」


ケラルトははぁと大きくため息をつく。


ウルは思わず、『妹なのに大変だなー』などと心で呟く。


「あの、ウル様、これは一体どのように使うのですか?」


「あ、すみません。説明していませんでしたね。まずは、どこの指でもいいので、嵌めて頂けますか?」


「指…どこでも…ですか…」


ウルの言葉に、カルカは顔を赤らめて少し考えた後、左手の薬指に嵌めようとする。


ケラルトはぎょっとした表情を見せたかと思うと、バシッとカルカの腕を掴み、ウルに気付かれないようにして背中を向ける。


「ちょっと…いきなり何するのよ、ケラルト…!(ボソッ)」


「カルカ様…!バカなんですか…!そんなところに嵌めたりなんかしたら、周りからいらぬ誤解を生みます…!(ボソッ)」


「ご、誤解も何も…恋人としての前段階でお友達になったのです…!いいじゃありませんか…!(ボソッ)」


「よくないです…!周りにそのような男性ができたと公言しているようなものです…!今はまだ時期尚早です…!いいからそこ以外の指にしなさい…!(ボソッ)」


「あの、大丈夫ですか…?」


「「は、はい!問題ありません!!」」


ウルの心配そうな声に、2人はビクッとしながら答える。


そんなに迷うことだろうか…?


「カルカ様、左手の小指にしましょう…!(ボソッ)」


「小指…?どうして…?(ボソッ)」


「左手の小指に着ける指輪には、『恋を成熟させる』という意味があります…(ボソッ)」


「!?、それだわ…!ケラルト…!(ボソッ)」


カルカは左手の小指に伝言の指輪をはめる。すると、カルカの指の大きさに合わせ、指輪がジャストフィットする形で大きさを変える。


「お、おまたせしました…///」


カルカはどこか気恥ずかしそうにウルに向き直る。


「いえいえ。…とてもお似合いですよ、カルカ様」


「あ、ありがとう…ございます…」


カルカは思わず指輪をしている左手を隠すようにして、右手を被せる。


「それでは、ご説明してもよろしいですか?」


「は、はいお願いします!」


カルカはピシッと背筋を伸ばして真剣な表情になる。


離れていてもウルと会話ができるアイテムの使い方である。


真剣になるのも当然であった。


「そんなにかしこまらなくても大丈夫です…とても簡単ですから。まず指輪をはめた方の手を、このように耳を覆うようにしてください」


「は、はい…。こう、ですか?」


「その通りです…。そしてそのまま、私の名前と顔を思い浮かべて頂けますか?」


「えっと、はい…。うぅ…///。できました」


ウルの顔を思い浮かべろと言われ、少し照れてしまう。


「その状態で『伝言(メッセージ)』と呟いてください」


「メッセージ…。(ピピッ)…」


『聞こえますか?カルカ様』


「あ、聞こえました!頭の中に直接響いています…。しかも鮮明に…///」


「どうやらうまくいきましたね。明確にどのくらい離れていても大丈夫かはわかりませんが、恐らく聖王国内くらいの距離でしたら、今の鮮明さでお話ができますよ」


ウルの説明に、またもケラルトが驚きの表情を浮かべる。


「なっ!そんなに離れていても大丈夫なのか…!?」


「ええ、大丈夫だと思われます(ユグドラシルの世界一つの大きさが、大体聖王国の大きさくらいだったし…知らんけど)」


ケラルトは、何かを考え込むようにしてぶつぶつと呟き始める。


何やら、不穏なことを考えている様子であった。


「あ、ありがとうございます…ウルさん。その、練習もかねて、明日以降…沢山メッセージしても大丈夫ですか?」


「ええ、もちろん大丈夫ですよ…。いつでもお待ちしております」


ウルは小さく笑って見せる。


そのお返しとばかりに、カルカから満面の笑みが返ってきた。

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