第24話 お友達
カルカは、ウルに対しての2回目となる祝典を終えると、レメディオスとケラルトと共に、ウルの待つ一室へと向かっていた。
ウルが玉座の間に姿を現した瞬間には、思わず息をするのを忘れてしまった。
入室からすでに美しい素顔を晒していたからである。
ウルの素顔と白銀の様相、そしてその堂々たる姿に、参列していた宮廷内の関係者や、兄であるカスポンドですら呆気に取られていたのは言うまでもない。
既に3度目であった自分ですら、まだまだ慣れないのである。
前を歩くレメディオスとケラルトが足を止めたことで、ウルの待つ一室に到着したことが分かった。
ノックと共に入室し、ウルの姿をその目に捉える。
祝典の時と同様、兜は被っておらず、美しい顔が見て取れた。
しかし、すぐに膝をついて自身に平伏したため、黒い瞳と美しい顔立ちは見えなくなってしまった。
心の中に、歯がゆさが生まれる。
どうして私に平伏するのか…、なぜお顔を見せてくれないのか…。
だが、それは当然のことであり、それを理解できぬほどカルカはバカではなかった。
「ウル様…。ここは公式の場ではありません…。どうか、楽にしていただけますでしょうか?」
しかし、ウルは今だ平伏したままであった。恐らくは、レメディオスかケラルトの言葉を待っているのだ。
「ウル殿、楽にしてください」
ケラルトが、優しく声をかける。いつもよりも、幾ばくかやわらかい口調に感じた。
その言葉で、ようやく顔を上げ、カルカは再びウルの顔を見ることができた。
カルカは自身の心臓が、ドクンッと跳ね上がるのを感じる。
ひとつ吐息を漏らしたあと、意を決して口を開く。
「ど、どうぞ…おかけになってください…///」
顔を真っ赤に染め上げ、耐えられないといった様子で俯く。
ケラルトは『大丈夫かしら?』と言った様子で、横目でカルカを見つめている。
レメディオスもカルカの気持ちを理解し始めている。
…まあ、ケラルトに散々丁寧に説明されて、ようやく理解したのだが…。
それでも、『カルカ様はウルのことが好き!』程度にしか理解しておらず、真意を理解しているのかは怪しさが残る。
「それでは、失礼いたします」
カルカの言動に些少の違和感を覚えながらも、ウルはゆっくりと椅子に腰かける。
カルカもゆっくりと対面の椅子に足を運び、座って見せる。
………。
沈黙が流れる。
カルカは膝に置いた自分の両手を見ながらソワソワとしているだけで、一向に口を開くどころかウルの顔すら見ていない。
扉の前で、2人の姿を捉えながら待機しているケラルトとレメディオスも、そわそわとし始める。
ウルからしてみれば、なぜカルカがこのような話の場を設けたのか、その理由すら知らないのだから、その不安は計り知れない。
「(え…なにこのなぞの時間…)」
ウルは悪魔騒動の件の犯人だとバレたか?などと自分のやらかしが原因か…と考えていた。
………。
やはり沈黙。
カルカは変わらずもじもじしているだけである。
この状況に一番びっくりしているのは、実はカルカ自身であった。
コミュニケーションに関しては、自信のある方であった。
聖王女として、様々な執務や面会、民との交流もこなしてきた。
唯一、裏工作などの根回しだけは苦手であったが、人よりも会話には自信があった。
しかし、ただのカルカとして話をしようとすると、想い人を前にしてしまうと、会話どころかまともに口すら聞けなくなってしまうのだ。
新発見である。
しかし、嬉しくはない。なぜなら、この微妙な空気感は、きっとウルも感じているはずだからである。
少し泣きそうになる。
だが、そこに大きな助け舟が出される。
「あの…カルカ様?大丈夫ですか??」
「…は、はい。す、すみません。だ、大丈夫です…///」
ウルがこの静寂を破ったのだ。あと2秒ウルが口を開くのが遅ければ、ケラルトが割って入ろうとしていたが、杞憂に終わった。
「そ、そうですか…。えっと、今日は何やらお話があると伺ったのですが…どのようなご用件でしょうか?」
「あ…えっと、ウル様にお聞きしたいことがございまして…」
「はい…何でしょうか?」
「え、えっとですね……。い…い…いい許嫁のような方は…いらっしゃいますか??」
「「「え?」」」
カルカは、何度もドン詰まりながらようやく質問することに成功する。
だが、ウル達は思わず疑問を投げかけてしまう。だが、それぞれに違う印象をもった疑問であった。
ウル「(許嫁?なんで??…あ、屋敷をあげたけど、住む人いますか的な??…心配されているのか…。それはそれで情けないな…。まあ、一人ですけどね!!!!)」
ケラルト「(さ、最初の質問がそれ!?あー、もう!!もっとこう、好きな食べ物は何ですか?とか色々あるじゃない!!あー…。まさかカルカ様がここまで恋愛下手だったとは…)」
レメディオス「(許嫁…確か結婚を前提に付き合っている人…って意味だよな?…仲良くなりたいのになぜそんなことを聞くんだ?)」
(作者)すみません、理解していなかったようです。
「え、えっと…もしいらっしゃるなら…その、ご紹介いただけたらなぁー…なんて…思いまして……その………」
カルカは、何とか恥ずかしさをごまかそうと口を開いたが、次第に自分が言っている言葉に、自分で苦しくなり言葉が詰まってしまう。
「許嫁…ですか…。今はいませんよ」
「ほ、本当ですか!!??」
カルカの表情がパーッと明るくなる。可愛らしく、可憐な笑顔がウルに向けられる。
「はい…」
「…やった…(ボソッ)///」
「えっ…?」
「な、なんでもありません…」
なにやらカルカがボソッ呟いたように聞こえたが、ウルには聞き取れなかった。
「しかし、なぜそのようなことを??」
特に気にせず、ウルは単純な疑問をぶつけてみる。
「えっ…そ、それは…///」
カルカはまたもじもじとしはじめた。
ウルは何か只ならぬ理由があるのではないかと感じた。
だが、それは大きな誤解であることに気付く。
「あのですね…その…」
カルカは一呼吸おいて、今言える最大限の理由を述べた。
「お、お近づきに…というか、仲良く出来たらなー…と思いまして…その…///」
ここで、ウルはようやく腑に落ちたような感覚を覚える。
そう、カルカは聖王女である。
聖王国で最も地位が高い。それゆえに多忙な毎日を過ごしているに違いない。
自分よりも若いにも関わらず、人の上に立ち、国を導いているのだ…。であれば、心労もたまるであろう。心を許し気兼ねなく話せる友人が欲しいと思ってもおかしくはない。
作者(違います)
今のいままで、そんな簡単なことに気付けなかったことを、申し訳なく感じる。
作者(だから違います)
ウルは小さく笑って見せたかと思うと、「ふふっ!」と息を漏らしながら笑った。
「ど、どうして笑うんですか!?わ、わたし、すっごく真剣に…頑張ってお伝えしたのに……うぅ…」
カルカは顔を真っ赤に染上げ、キッと目を細める。
次第にその目には涙が溜まっていく。
いくら英雄とはいえ、敬愛するカルカに涙を浮かばせたことに、レメディオスとケラルトも不快感を覚える。
レメディオスとケラルトが同時に異議を唱えようと一歩踏み出し、口を開こうとしたが、ウルが弁明する方が早かった。
「いえ、誤解ですよ。申し訳ありません。カルカ様のお気持ちに今のいままで気付けなかった、自身の愚かさに笑ってしまったのですよ」
作者(だからちげーって言ってんだろ、いい加減にしろ)。
「えっ…ほ、本当ですか??私の想いを…その…」
「はい…」
カルカは、更に顔を真っ赤に染上げる。心臓が今迄にない速さで打ち付けているのが分かる。
ウルは短く返した後、すくっと立ち上がる。
そんなウルの行動を目で追っていたカルカであったが、ウルが右手を差し出してきたことに、些少の疑問を浮かべる。
「えっと…これは…」
恐らくは握手を求めているということは理解できたが、なぜこの場面で?と思ってしまった。
「まずは…お友達から、ということでいかかでしょうか?カルカ様」
ウルは微笑をもらしながらカルカを見つめる。
カルカは大きく目を見開く。顔が綻ぶ。
そうだ。
こういうことは順序が大事なのである。
お母様もそのようなことを言っていたわ…、などと思いだし、更に顔が綻ぶ。
「はいっ!よ、よろしくお願いいたします、ウル様///」
まるでうまくいったかのように思われるこの会話は、想像以上の誤解と勘違いを生んでいた。
しかし、これを勘違いであると認識できるものは、ここには存在しなかった。
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