第23話 アダマンタイト

ウルがこの異世界に転移してきてから3週間が経った今日。


首都ホバンスの宮殿。その中にある聖王女の自室。


カルカは、鏡の前に立ち、何度も髪型や服装、顔におかしな点がないか何度も確認していた。


数人の侍女によって身だしなみを整えられたため、おかしな点はないのであるが、自身でも確認をしないと安心感を得られなかったためである。


今日は、首都ホバンスにおいて、祝典が執り行われる予定なのである。


もちろん、その主役はカルカが只ならぬ恋心を抱いている相手、ウルであった。


10日ほど前に、オリハルコン級冒険者となったばかりのウルであったが、なんと今回はアダマンタイト級冒険者の称号を付与する祝典なのである。


これはカルカやケラルトが画策した者ではなく、カリンシャの冒険者ギルド長と、とある街の大貴族からの推薦で実現したことであった。


もちろん、推薦だけでなれる程、アダマンタイト級冒険者は甘くないのは周知の事実である。


事実、ウルは前回の悪魔騒動において、実績だけで見ればアダマンタイト級に匹敵する武功を上げていた。


しかし、それでもいきなりアダマンタイト級の称号を付与できなかったのは、それだけアダマンタイト級冒険者が慎重に選ばれているからに他ならない。


また、聖王国では、建国から200年の歴史の中で、未だかつて一度もアダマンタイト級冒険者が生まれた実績がない。


これに関しては、徴兵制や国家総動員令制度、聖堂勢力に聖騎士団や神官団の力が大きいことで、冒険者ギルドの力がさほど強くないことが大きく起因しているのだが、今回の件はそれを跳ね除けるだけの強さを持った人物であることが大きい。


聖王国の英雄、白銀の聖騎士ウル。


彼は、オリハルコン級冒険者となったその日から、たったの1週間の間に、ギガントバジリスクとリトルファイヤードラゴンを討伐したのだ。


どちらも強大なモンスターである。


アダマンタイト級冒険者チームでも、気の抜けない、苦戦を強いられる相手である。


それを、ウルはたった一人で、しかも驚くべき速さで討伐し、達成して見せた。


この報告を受けたとき、カルカはまるで御伽話を聞いている幼女のような目の輝きではしゃいでいたのは言うまでもない。


加えて、バカのレメディオスと、腹黒のケラルトですら、敬愛の意を示していたくらいである。


さて、そんな訳で、今回は先の働きに対する感謝と、ウルにアダマンタイト級冒険者の称号に加え、活動拠点であるカリンシャの街に大きな屋敷を下賜することとなった。


カリンシャにある、聖王国が保有する屋敷、且つ今は使用されていないという、まるで狙ったような適切なモノがあったことで、宮廷では即座にこれを褒美として用いることにした。


当初、ホバンスへにて住居の下賜を提案したカルカであったが、やはり南部貴族派閥との関係悪化を重く見た大臣たちがこぞって反対したことで、実現しなかった。


少し、いや大分落ち込んでいたカルカであったが、その救済なのか、ケラルトがとあることを手回ししてくれていた。


祝典の後、宮殿の一室で、ウルと二人きりで話をする時間を設けてくれたのだ。


いや、正確には護衛役としてケラルトとレメディオスがいるのだが、あの2人であれば融通もきく。


ケラルトはその辺りも考え、そのような機会を設けてくれたのであろう。


やはり、持つべきものは友である。


緊張をほぐすようにして、一つため息をつく。


すると、扉をノックする音が聞こえる。


時間である。


カルカは鏡の前で一度満面の笑みを浮かべると、勢いよく立ち上がった。





「ふぅ…」


ウルは、肩の力を抜くようにして、椅子の背もたれに身を預ける。


そして、首にぶら下げている冒険者プレートを眺める。


そこには、先ほどカルカ聖王女陛下より頂いた新しいプレートが光り輝いていた。


アダマンタイト級冒険者のプレートであった。


ウルからすれば、まだまだオリハルコン級として活動していく算段であったが、まるで仕組まれた様に強大なモンスター(現地基準)が続けて現れ、それを討伐したことで、異例も異例の大出世を為してしまった。


特に後悔をしているわけではないが、聖王国で初めてのアダマンタイト級冒険者の誕生ということで、幾ばくかの重荷を感じている。


いくら正義のロールプレイが大好きな中二病と言えど、限度というモノがある。


加えて、カリンシャに立派な屋敷も貰ってしまった。


1人身なのに一体どうしろと?という感じであったが、式典の最中に断ることもできず、ありがたく頂戴した。


至れり尽くせりであった。


「はぁ~…」


思わずため息が漏れる。そして、そのため息は、遮るものがないので、綺麗に空中へと飛散していく。


式典の出席に伴い、宮廷まで案内をしてくれたのはカストディオ姉妹であった。


その際、レメディオスから『兜は最初から外してしまえ』という提案を受け、少し渋ったが、ケラルトから『どうせ外して見せてと言われますわ』という発言により、一々言われるのも面倒だし、且つもう何度か様々な人の前で外していたため、その提案に乗ることにした。


なんでも、自身の顔は、とても美形でイケメンらしい。


ウルがそれに気づいた時は、大分驚いたものであったが、よく考えれば自分がユグドラシル時代に作った顔である。


これをそのままリアルに持って行っても、確かにイケメンだわ…という解釈になり、酷く納得することとなった。


さて、祝典を終えたにも関わらず、ウルが未だに宮廷の一室に残っているのには理由があった。


なんでも、『カルカ様が2人で話がしたいと仰っている』というモノであった。


これを話してくれたケラルトに、『聖王女様と2人きりというのは色々とまずいのでは?』と質問したところ、『あたしと姉さまもいるから大丈夫です』とのことであった。


よくよく考えれば、自身の精神衛生上あまりよくはないのだが、なんだがこの世界に転生してからというもの、このような場面に少しずつ緊張しなくなっていた。


圧倒的な強さを持っているというのも自信につながっているのだが、慣れというのは恐ろしいものである。


そんな風に思考を巡らせていると、ノック音と共に、部屋に三人の女性が入室してくる。


ウルは、ノックが聞こえたと同時に立ち上がり、扉へと身体を向ける。


レメディオスとケラルトが先に入室してくるのが見える。


部屋に入ると、2人が左右に道を開けるように移動すると、扉の奥から可憐な女性が入ってきた。


…カルカ聖王女陛下であった。


なにやらいつもよりも、美しい顔立ちをしていた。


気のせいかもしれないが、微笑も以前よりも深く、頬の赤さも以前より強い印象を受けた。


カルカの姿を見て、ウルは静かに、ゆっくりと、膝を折り、頭を垂れた。






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