第21話 新たな武功と恋煩い①

オリハルコン級の冒険者となったことで、ウルは高難度のクエスト受けられうようになった。


逆に言えば、今までの容易なクエストを受けることは難しくなってしまったが、実力に見合ったクエストを受けられるようになったことで、ウルは意気揚々としていた。


…まあ、例えアダマンタイト級になろうとも、ユグドラシルにおいて2番目に強かったプレイヤーであるウルを満足させられるようなクエストは、そうそうにしてないのであるが、カッパーの頃のクエストに比べればマシなのは事実であった。


右往左往したが、結果としてウルの思惑通りに事が運んだので、『終わりよければすべてよし』と言った様子でウルは自身の中で罪悪感を消して、納得していた。


しかし、ウルの中では自身が呼び出した悪魔によって、冒険者ギルドが木っ端みじんになってしまったことに心の底から申し訳なさを覚え、

ている。


そのため、『自分にできることは何でもしますよ』とセリンに告げることになる。


セリンや冒険者ギルド長、そして他の冒険者からすれば、その発言は謙虚で誠実な素晴らしい人柄と移り、ウルの思いとは裏腹の噂になるのは言うまでもない。


さて、そんなウルがオリハルコン級の冒険者となって初めて受けたクエストが、『ギガントバジリスク』の討伐であった。


聖王国、唯一の隣国と接する街道。


それは、アベリオン丘陵とローブル聖王国を分断するように建てられている砦の極北にある。


リ・エスティーゼ王国と繋がるその街道付近に、ギガントバジリスクが出現したらしい。


聖王国唯一の他国に繋がる街道に現れたギガントバジリスクを放置することは、実質的に外交を完全に遮断する行為になる。


これを重く受け止めた冒険者ギルド長は、オリハルコン級冒険者のウルに対し、名指しで依頼を行う。


ギガントバジリスクは、難度90のモンスターである。


常識的に考えれば、街一つを壊滅しかねない強大なモンスターでる。


だが、先の悪魔騒動で活躍したウルであれば、問題なく行えるとの判断を下した。


…しかし、結果としてそれは驚くべき結末を迎える。


それも、良い意味でだ。


当初、早くても5日程度かかると思われていたそれを、ウルは朝に出発して当日の夕方に帰還するという、驚くべき速さで討伐して見せたのだ。


加えて、ギガントバジリスクの首を一刀両断するという離れ業で、である。


当初この報告を受けたギルド長は、半信半疑で聞いていたが、後日、ギルドが依頼していた荷運びにより、ギガントバジリスクの死体がカリンシャに到着する。


そして、その死体を確認したギルド長は己の疑いを猛省することになる。


身体にはほとんど、いや皆無と言っていいほどに戦闘痕はなく、首だけが、綺麗に一刀両断されていたのだ。


この話題は、先の悪魔事件と同様に、カリンシャを中心に聖王国中に知れ渡ることとなった。





ローブル聖王国首都ホバンス。その宮殿。カリンシャにある執務室とは違う、本来の宮殿にある執務室にて、聖王女は職務に勤しんでいた。


「はぁ…」


カルカは、筆を止め、窓の外を眺めたかと思うと、また羊皮紙に向かって筆を走らせる。


…しかし、またしばらくすると筆を止め…ということを何度も繰り返していたのだ。


「体調がすぐれませんか?カルカ様」


「あ、いえ、そんなことはありません。大丈夫よ、ケラルト」


「…少しお休みになりますか?」


「い、いえ、問題ないわ」


そう言うとカルカは再び筆を動かした。しかし、やはりまた筆は止まり、おぼろげな目で窓を見つめる。窓の外は、活気ある首都ホバンスの城下町が一望できた。


ケラルトは、そんなカルカの姿をここ数日、何度も目にしていた。


先のカリンシャでの悪魔騒動、そしてアベリオン丘陵での亜人と悪魔の侵攻。


この二つが、早期に解決し、加えて死者も出なかったことで、北部聖王国の人々の活気と平穏は、目に見える形で表れていた。


…全てはあの英雄、オリハルコン級冒険者である白銀の聖騎士ウルのおかげである。


しかし、それは同時にカルカの執務に対する集中力を阻害してしまう結果となった。


「ふぅ…」


カルカはいつもよりも大分時間がかかったものの、執務をひと段落させて筆をおいた。


「ねぇ、ケラルト…」


「はい、カルカ様」


「今度はいつ…ウル様にお会いできるのかしら…」


「いつ…と申されましても…今のところ、予定はありませんね」


ケラルトは困惑して口を開く。


「や、やっぱり…首都ホバンスで生活をしていただいた方がいいのではないかしら?…ほら、英雄様をお迎えするなら…より活気のある首都の方が…」


「カルカ様…。それは聖王女派閥との必要以上の癒着を疑われると、この前お伝えしたはずです…」


カルカは、聖王国王女として、ウルに対してオリハルコン級の推薦後見人と、九色の『白銀』贈呈、加えて南部貴族への牽制を込めて、短剣を下賜したのだ。


これ以上の褒美、及び優遇は、あらぬ誤解といらぬ争いを生みかねない。


「少なくとも、ウル殿が新たな功績を上げるか、アダマンタイト級の冒険者となるまではお待ちいただかないと…」


「…そうすれば、ホバンスに招待できるかしら?」


「招待はできるかと…。ですが、居住して頂くのは難しいでしょう」


「ど、どうして!?」


カルカはまるで意図していなかった返答に驚きを見せる。


そんなカルカの様子を見て、ケラルトは小さくため息をつく。


「ウル殿が自らホバンスに移住されるのなら、些少の騒ぎで済みますが、カルカ様自らのお声がけとなれば、その噂はすぐに広まります。それに、ホバンスかカリンシャかで言えば、カリンシャの方が亜人等の被害の可能性は高いわけでして…。それに、これ以上南部貴族と対立を生むような事は避けて頂かないと…」


「う、うぅ~…」


ケラルトのもっともな意見に、カルカは何も言い返せず、可愛く呻き声を上げて見せる。


そうして呻き声を上げているカルカであったが、何かを思い立ったかのように席を立つ。


「どちらへ?」


「…自室で休みます」


カルカは小さくため息をつくと、トボトボと自室へと向かった。


ケラルトは、いつものカルカとは全くの別人の姿に、頭を抱えていた。


「一体どうしたらいいのかしら…」


ケラルトは、生まれてから一番の大きなため息をついて見せた。

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