第6話 聖王女
城塞都市カリンシャ…の最も高台にある城の一室。
「そうですか…南部の貴族たちにも困ったものですね…」
本来は首都に当たるホバンスの王城にいることが多いが、時折この聖王国でもっとも強固な城塞都市で執務を行うことがある。
口を開いたのは、聖王女カルカ・ベサーレス。
王位継承順位は低かった。聖王国はいままで男子継承だったため、本来であれば聖王の地位にはつけないはずだった。だがその不可能は、二つの資質により冠を載くことになった。
1つは外見の美しさだ。ローブルの至宝と称賛されるほどの顔は、愛らしさと凛々しさを兼ね備え、金糸のような長い髪は艶めいて鮮やかな光沢を湛えている。まるで、天使の輪のように見えるものだから、柔らかに微笑む姿を見て聖女と表現する者も少なくない。
そしてもう一つが、信仰系魔法詠唱者としての高い素質だ。15歳にして第四位階魔法を行使する天才ぶりを発揮し、先代聖王と神殿からの後押しを受けて王位についたのだ。
それから約8年…。優しすぎるという不満こそあるものの、今のところ失策らしい失策をせずに国を統治していた。
「…カルカ様、やはり粛清も視野に入れた方が良いのではないですか?」
諭すように声を発したのは茶髪の女性だった。
彼女の名前はレメディオス・カストディオ。
カルカの親しい友人であり、歴代最強と言われる聖騎士団団長として彼女の権力の武力的背景を支えてくれている。九色と言われる、聖王国の優れたものに下賜される称号を有している。
「そうね…。現状では歩み寄ることも難しいですし」
ふふっと不敵な笑みを浮かべたのもまた女性だった。
彼女はレメディオスの2つ下の妹、ケラルト・カストディオ・
神殿で最高司祭であり、神官団団長という地位に就く。
使える魔法は、信仰系第四位階である。…ということになっている。
実際には第五位階まで扱えるが、嘘の情報を流しているのだ。
この2人こそが、カストディオの天才姉妹と呼ばれるものたちであり、聖王女の両翼。
女性であるカルカが聖王に選ばれたのはこの姉妹が裏で手を回していたからだ…。と多くの貴族が疑っているため、悪評を流される時は3人そろってということが多い。
いくつもの悪評を払拭してきたが、どうしてもこのうちの一つ…。
三人は皆、未婚、どころか、男と付き合ったことすらないため、ただならぬ関係ではという噂だけがどれだけ否定してもなくならないのがカルカの悩みの一つであった。
もちろん、好きなのは男性である。
今年でもう23歳になる。結婚相手をいい加減捕まえたいという気持ちが強く、内心ではかなり焦り始めている。
聖王国や隣国のリ・エスティーゼ王国では、女性の結婚は18歳前後が基本である。王族ともなれば、14前後には結婚相手が決まり、16には結婚。18になる頃には子をもうけているの普通であった。
そのため、カルカの焦りは尋常ではなかった。
自分で美容系の魔法を編み出し、肌年齢を若々しく保っている。
そして、男性に対する高すぎる条件はない。わがままは言っていないのだ。
それはもちろん、かっこよくて強くて…と理想はあるが、唯一ある条件と言えば、
『糸の一切ついてない、私という人間を愛してくれるお婿さん』
ただそれだけなのであるが、これがなかなかに難しい。
カルカは思わずため息をつく。
…すると、息と同時に、カルカ達のいる玉座の間の大扉がガンッと開かれる。
非常に無礼である。順序だてた礼儀を一切行わない行動に、不信感を覚える。
しかし、そのような無礼を働くものは、この城にはいない。
一瞬で不信感は、緊張に変わる。それほどの事態なのかと。
「カルカ王女様!!!大変でございます!!!!」
衛兵の一人が、大声をあげながら、ひざまずく。
「一体何事ですか!?」
カルカは座っていた玉座から勢いよく立ち上がる。
衛兵は、一呼吸おいてから先ほどよりも大きな声を発した。
「このカリンシャに!…強大な悪魔の群れが出現いたしました!」
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