第5話 変質
「い、いかがなされましたか…⁉主様!」
最も後ろで控えている戦車の悪魔(ウォー・デビル)は、ひどく困惑していた。
目の前にいるお方は、神…そう、神なのだ。
私に命を与え、意志を与え、そして恐れ多いことに肉体を与えてくださった。
この矮小な身体と心で、一体どれほどのことができるのかは不明だが、それでも私を必要とし、召喚して頂けた。
であれば、私はその願いと命令の赴くままに力をふるうのみ…。
ああ、これほどの幸福があるだろうか…。
だが…。
目の前にいる主様は、どこかご不満なご様子…。驚愕の色も伺える。
そうして考えを巡らせていた戦車の悪魔であったが、一つの可能性に気付く。と、同時に、同じ雰囲気を隣に並ぶ同胞からも感じる。
自身と同じく、戦車の悪魔として呼び出されたものである。
その結論とは、『想像と違う』というものであった。
それが核心に変わった時、私は地面を割る勢いで頭を垂れ、這いつくばった。
「大変申し訳ございません!!御身の求める強大な悪魔へとなりえなかった私共の矮小な存在を、どうかお許しください!!!」
ウルは酷く困惑していた。
最終戦争・悪によって呼び出される悪魔たちには、本来意思がないからである。加えて、召喚者の指示に従うこともないからである。
「…いや、少し驚いただけだ…。すまないな」
「しゃ、謝罪など…。主様のお考えを読み違えた私共の失態でございます!」
「ああ、えっと…。確認なんだけどさ…」
「はっ!!何なりと仰ってくださいませ!」
戦車の悪魔は、更に頭を垂れて平伏する。
「改めて聞くのもおかしな話なんだけど、会話ができているということは、意志はあるんだよね?」
「はい。主様が与えてくださいました」
「そっか…。じゃあもう一つ…、敵への攻撃や撤退など、私の指示に従うかい?それに、仮に私を攻撃しろと言ったらできる?」
「主様のご命令とあらば、どのようなでもいたします」
今、考えられる可能性は1つ…。異世界に転移したことで、召喚魔法の特性が変わった…。ということである。もしかしたら他の魔法も変質しているかもしれないため、確認の必要が出てきた。
「それじゃあ最後に……」
ウルは大きく息を呑んで、そしてはいた。この発言の結果次第では、いきなり戦闘になることも考慮してだ。
「…死ねといったら、死ねるかい?」
「仰せのままに…。我らの命は、主様のモノ…。主様から死ねとご命令を頂けたのであれば、これほどの名誉な死はございません…」
…賭けに、勝った。ウルはそう思っていた。
内心はヒヤヒヤものであったが、実際は望んでいた回答と結果であった。
『一生ついていきます!!』などと言われたらたまったものではなかったからだ。
「質問ばかりで悪いんだけど、君たちは時間経過で消滅するかい?」
「その通りでございます」
「…大体わかったよ。ありがとう」
「…⁉お礼など!…我らは主様のためにのみ存在しております。どうか、いかようにでもお使いください」
あれだ…。ここまでくると、なんか逆に怖くなってきてしまう。
これだけの忠誠心に、答えられるものがないからである。
適当に持ってきたマジックアイテムの…それも弟の失敗作である。
それを消費しただけで『主様!神様!』となるのだから、たまったものではない。
そこまで考え、ウルは本題に入ることにした。
「大分話がそれたね。君たちを呼んだのは…私が君たちを殺すためだ…。目的は力試しだ」
常識的に考えれば、この発言を聞いたものは、サイコキラーか狂人のものであると判断するだろう。
『君を産み出したのは、君を殺すためだ』などと言われ喜ぶものは、少なくともウルの知り合いにはいなかった。
だが、今この場だけは違う…。悪魔たちの間では、『おおぉ…』とか『主様自ら…』などと感嘆に至っているのである。
…あんまり考えると、精神衛生上碌なことにならないと判断したウルは、地面に向けて下げていた刀を持ち直す。
「それじゃあ、早速始めようと思うんだけど…、いいかな?」
「主様。発言のご許可を頂いてもよろしいですか?」
声を掛けてきたのは、嘆願の悪魔であった。レベルは40台の悪魔で、長い髪と青白い肌をもつ女性の姿をしている。両手に目、鼻に加え、口も糸で縫われるようにして塞がれている。何で喋れるのか不思議だったが、その疑問は聞かないことにした。
「ん?どうした??」
「一つ、ご提案がございます…」
「提案??」
思わず感心してしまった。召喚した悪魔が、意思があるだけでなく、思考も出来たからである。これは非常に興味をそそられることであった。
ウルがそんな風に考えていると、嘆きの悪魔はゆっくりと口を開いた。
「主様の腕試しを近くの人間の街で行い、主様の名声を高めるのはいかがでしょうか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます