第3話 聖王国

ローブル聖王国。


信仰系魔法を行使する聖王を頂点とし、神殿勢力との融和によって統治されている宗教色の濃い国である。


そういった特色を持つローブル聖王国の国土には、大きく二つの特色がある。


1つは海によって国土が南北に分けられていることだ。無論、国土が完全に分けられているというわけではなく、巨大な湾になっている。イメージとしては、横に傾けたUの字型の国土となっている。


これのせいで、北部聖王国と、南部聖王国などと呼ぶものもいるくらいだ。


そしてもう一つが、半島の入り口、来たから南まで全長100kmを超える城壁を作っていることだ。


これは聖王国の東側、スレイン法国との間に存在する丘陵地帯…名を「アベリオン丘陵」というが、ここに住む亜人部族の進行を防ぐためのものである。


ちなみに、ウルが最初に転移してきたのも、城壁にほど近い、ここアベリオン丘陵であった。


その城壁から少し…距離にして30㎞程度進んだところに、カリンシャという城塞都市がある。


城壁が破られた場合、一番最初に侵攻されるのが、ここカリンシャである。


北部聖王国最大の城塞都市であり、首都と比べても遜色のない活気に満ちた街である。


ウルが最初に訪れた都市であり、活動拠点とした場所でもある。


さて、聖王国において、冒険者ギルドの力は強くはない。理由は3つある。


1つは、聖騎士団や教団勢力また、兵団が強大で、且つ賃金や待遇もよいということだ。冒険者でも最高位のアダマンタイトや一つ下のオリハルコンともなれば、生活に困るどころか、上流貴族並みの生活を送ることも夢ではない。だが、大抵の冒険者はカッパーかアイアン止まりであり、それであれば、兵団に所属した方が安定した収入を得られる。

2つめは、強力な冒険者がいないことにある。オリハルコンという、上から数えて2番目のランクにある冒険者チームが一組いるが、その下はランクで3つ下のゴールドのチームが10組である。ゴールドの一個下、シルバーの冒険者も20程度で数えるほどしかいない。冒険者と呼ばれる9割以上が最下層のカッパーと一個上のアイアンである。聖王国全体でこれである。他国に比べれば、ランクも人数も鼻くそみたいなものであった。


3つめは、聖王国への徴兵命令があることである。本来、冒険者は戦争には不参加という姿勢であるが、聖王国に関しては聖王の名の元、強制的に出撃を命じられる。これには、ギルド長も頭を抱えている。


…と、他の国の冒険者ギルドに比べ、活気も自由度もないために、冒険者を志望してくるものも少ないのである。





カリンシャの冒険者ギルドで受付嬢をしているセリンは、昨日の夕方に冒険者登録をした男のことを考えていた。


…見たこともない立派な白銀の全身鎧を身に着け、刀という珍しい剣を2本腰に差した男である。


とある王国の戦士長を思わせるようなガタイの良さも相まって、思わず見惚れてしまう程であった。


しかし、見た目だけの話をすれば、吟遊詩人の歌う聖騎士がそっくりそのまま出てきたようなものであった。


当時、セリンは挨拶することも忘れるほど驚いたものである。


だが、セリンの予想とは違い、とても優しい口調で語り掛けてきたのだ。見た目とは裏腹に、とても常識のある誠実な男性であることが伺えた。


加えて、立派な装備を身に着けているにも関わらず、「冒険者登録をしたい」というのだからこれまた驚いたものである。


本来ならば、冒険者登録は大手を振って迎えるところではあるが、「聖騎士団に入りたいとかではないですよね?」と念を押してしまう程であった。


だが、そんな少々失礼な発言にも、男性は気にする様子はなく、こちらの説明を真剣に聞いている様子であった。


そしてそのまま冒険者の登録を終え、その日はギルドを後にしたのだ。


セリンは一つずつ思い出しながら、どこの国の人?とか顔を見てみたいな…とか色々な思いが頭を巡る。


そんな風にしていると、ギルドの扉がギィと開く。


ギルドのロビーには、他の冒険者は2組6名しかいなかった。


…まあ、いつも通りの閑散具合である。


冒険者たちも、扉の音に反応する。銀色の立派な全身鎧を着ていることに目を見開き、ヒソヒソと会話を始めた。


…よい内容ではないことだけはわかった。


「おはようございます。ウルさん!」


「おはようございます。セリンさん」


ウルは軽く頭を下げると、クエストボードへと向かった。文字が読めないのは昨日の時点で分かっていたので、アイテムを使って読んでいる。


文字を読めないのはまずいかも?…と思い、ユグドラシルのアイテムを使ったのだ。片メガネのようなアイテムで、様々な文字を解読して読むことができるというレアアイテムである。


「(…宝物の間から色々と持ち出しておいてよかったぜ…まさか役に立つとは…)」


そんな風に考えながら、ウルは一つの依頼書を剥がしとり、セリンの前にカウンターに優しく置く。


「とりあえず、初めてなのでお試しにこれをお願いできますか?」


「えっと…薬草の採取ですね。場所などはわかりますか?」


セリンは確認を取りながら、依頼請負の処理を進める。


「ええ、問題ないです」

一通り依頼の処理が終わると、依頼書をファイルのようなものにしまう。


「ノルマはありませんが、5個は取ってきて頂けるとありがたいです」


「承知しました。今日中には戻ってきますね」


「はい。お気をつけていってらっしゃいませ」


ウルはそう言い残し、颯爽とギルドを出ていった。


ウルがギルドから退出したのを見て、冒険者たちが声量を戻して話し始めた。


「すんげー鎧だったな」


「武器もなかなかだったぜ…どこの貴族の息子だ?」


「けっ…金持ちの道楽かよ…くだらねー」


「まあ、ただものではなさそうね…」


それぞれの思いをぶちまけながら言いたい放題である。


それを眺めていたセリンは、はぁ…とため息をついて冒険者たちに声を掛ける。


「お願いですから、変な絡み方しないでくださいね?トラブルはごめんですよ」


「わーってるよ、セリンちゃん」


本当にわかっているのであろうか?


冒険者はそういってエールを煽った。

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