天空都市「エレシア」

 昼どきの「リリーフル」では、ゆったりとした時間が流れていた。ノエルはカウンター越しにティーカップを拭きながら、店内の落ち着いた空気を楽しんでいた。木漏れ日が優しく店内を照らし、ハーブの香りが漂っている。


「おや、今日もいい匂いだな。」

ゆっくりと入ってきたのは、常連の老人だった。腰を少し曲げながら、穏やかな笑みを浮かべている。

「いらっしゃいませ、おじいさん。いつものハーブティーですか?」

ノエルは笑顔で迎える。

「そうだな、少し冷えるから今日は暖かいやつを頼むよ。」

老人が席に腰を下ろすと、深く息をついた。

「いやぁ、外はまだ風が冷たいね。」

「風邪をひかないように温まってくださいね。」

ノエルがティーポットを用意していると、今度は商人がドアを開けて店内に入ってきた。

「やあ、ノエルちゃん、今日も混んでるかい?」

商人は明るい声で挨拶をすると、カウンター近くの席に座った。

「これからですよ。どうぞごゆっくりお過ごしください。」

「そうか、じゃあそうさせてもらうよ。」

商人は椅子に深く腰掛け、店の雰囲気を楽しんでいる。


「ところで、じいさん、またおもしろい話でもしてくれるか?ここの店で聞く話は、いつもどこか特別な感じがするんだよな。」


「おお、そりゃあ特別だとも。ここのハーブティーには不思議な力があるからな、何でも面白く聞こえるのさ。」老人は冗談めかして言った。


「そういえば、今日はエレシアの話でもどうかと思ってな。」

老人が静かに話し始めると、商人とノエルが同時に顔を上げた。

「エレシア!あの空に浮かぶ都市の話ですか!?」

ノエルが目を輝かせながら聞き返す。

「おお、エレシアか。これまた面白そうな話だ。」

商人も身を乗り出すようにして続ける。


「あの、数百年前に空を支配していた都市だよな。空に浮かぶ魔法と科学が融合した最先端の都市だったっていうよな」


「そうだとも、エレシアには浮遊船があってな、空を自由に行き来できた。都市の中は石造りの美しい宮殿や、光り輝く浮遊庭園が広がっていた。昼は太陽の光を浴び、夜は星の光に照らされていたそうだ。」


「星の光…ロマンチックですね!何かの魔法でしょうか?」


「それ自体は魔法ではなくてな、エレシアの人々は、その星の光を直接手に入れる術を持っていた。『星の欠片』という強大な石を中心に据え、それを利用して空を飛び、夜を照らしていたのじゃ。」


「他所の国で聞いた話だが、星の欠片は天から降ってきた隕石の一部で、そこにはとてつもない魔力が宿っていたらしいぜ。その力でエレシアは空を漂い、住民たちは繁栄を享受していたんだ」


「なんだか、夢みたいな場所ですよね。」


「そうだよな。まあ、今じゃエレシアは一番危険なところでもあるけどな」


「不思議ですね。あの場所だけ時が止まってるなんて、最近ではまた、色々な憶測が飛び交ってるように思いますが、真実の解明には至っていないのですよね」


ノエルの言葉を聞いて、老人の表情が一瞬険しくなった。


「その謎に関しては昔から代々伝承で受け継がれてきておるのに、最近の若者は、時の神の契約やら地上の魔法帝国からの大規模魔法やらと、でたらめが多すぎる」


「俺はそっち説を推してるけどな、なんかかっこいいし、、、まあ実際、信憑性が高いのはじいさんの言ってる『時間凍結の禁忌魔法』を使った貴族の暴走だけどよ」


「私はどれもあり得ると思いますけどね。時の神の存在は夜会によって証明されてますし、大規模魔法は少し遠い話に思えますけどありえなくはないです」


ノエルがまっすぐとした瞳で2人を見つめた


「まあ実際、わしらが考えてもなんの謎も解明などできやしないのだがな」

老人は微笑んで答えた。


「ちょっと、古本屋巡りに行ってきます!」


「おいおいノエルちゃん、古本漁ったって謎は解明できないだろうよ。どっかの遺跡にでもいかねぇとわからないんじゃないか」


「ちょっと、遺跡巡り行ってきます!」


「ふむ、、、すでに発見されてる遺跡となると厳しいじゃろうな、魔導書でも見つかれば別だが」


「そういう問題じゃねえ気がするけどな」


「ちょっと、ま、、、」


「ところでよ、じいさん、そのエレシアにどうやって行けばいいんだ?」

商人がふと思いついたように尋ねた。


「そこが難しいところでな。」を組みながら老人は続ける


「かつては浮遊船を使って行き来していたが、今はどうだろうな。浮遊船が今も動いているとも思えん。あるとすれば、魔法使いなら空を飛べるものもいるだろうからそやつらに頼るしかないな。しかし、飛距離も限られておるしなかなか現実味はないがな。」


「仮に到達したやつがいたとしても、簡単には入れないよな。中には『星の欠片』を守るために生み出された守護者がいて外部からの侵入者を排除するらしい」


「時が止まった国でも動いてるなんて、なんかかっこいいですね。まるで、空中の要塞みたいです」ノエルは興味津々の様子だ。


「もしその守護者たちに会ったら、どうなっちゃうんですか?」


「そりゃあ、近づけば誰でも排除されるさ。特に高位の守護者、『スターチルドレン』は、星の欠片を直接守っていると言われてるぜ?」


「でものう、もし本当にエレシアに行ったら、ノエルちゃんは何を探したいんだ?」おじいさんが、真面目な口調で聞いた。


「うーん、やっぱり…『星の欠片』の謎を解き明かしたいですね。もしそれが本当にあるなら、その力はどれほどのものなのか…そして、なぜエレシアの時が止まったのかも知りたいです。それに、伝説ではエレシアには他の国々に存在しない古代の魔法が残されているとも言われているんですよね?」


ノエルはカウンターの端に手をつきながら、少し夢見るような表情を浮かべた。


「確かにな、エレシアには失われた魔法や技術が山ほどあると言われている。昔、旅人から聞いた話だと、あの都市には時間を操る技術があって、今では忘れ去られた魔法書が眠っているらしい。もしそれを手に入れたら、世界の流れを変えることもできるだろうよ。」老人が静かに話を続けた。


「それに加えて、星の欠片の力を悪用しようとする者もいるって話だ。何せ、空を漂う都市の力だ。手に入れれば、誰もが自分の思うままに世界を支配できるかもしれないからな。」商人は少し笑みを浮かべた。


「でも、エレシアはただの夢物語じゃないんですよね。いつか、誰かがその謎を解く時が来ると思います。その瞬間に立ち会えるなんて、考えるだけでワクワクしますね。」


ノエルの目はきらきらと輝いていた。彼女にとって、エレシアはただの伝説や噂話ではなく、いつか自分の目で確かめたい場所だった。


「そうですね、、、でももし、私がエレシアに行けたら…!まず、巨大な浮遊船に乗って、エレシアの美しい街に降り立つの。そして、目の前には空中庭園が広がって、光輝く神殿の中には…守護者が立ちはだかるのよ!」


老人も商人も目を丸くして、ノエルの話に耳を傾けた。


「私は、スターチルドレンのような最強の守護者と戦って…、それで、こう…魔法を使って!バシッと倒すの!」ノエルは身振り手振りを交えながら語り続ける。

「そして、星の欠片が守られている神殿に入って、エレシアの謎を解き明かし、みんなが一斉に動き出す瞬間を見届けるの!」


「ノエルちゃん、そんなことを考え始めたら、本当に冒険に出かけてしまうぞ!」商人がニヤリと茶化した。


「その時は、みんなでエレシアを見に行きましょう!」


「俺たち誰も戦えないけどな」笑いながらそう言い、店内は暖かな空気に包まれた。 冗談を交わしながらも、ノエルはエレシアの風景を頭に浮かべた。浮遊船が空を行き交い、空中に広がる都市の美しい街並み。その中には、今も静かに眠っている住民たちがいるのだろう。 「今度、古本屋で見てみようかな,,,」 気づけ昼すぎのリリーフルは休憩ついでに話を聞きに来るお客さんで賑わっていた。


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