第27話 泣いちゃう

 亮介の言葉責めにすっかり堕ちておちてしまった綾乃。その声はうわずったり、芯のない声になったりと乱高下らんこうげを繰り返す。そして、よだれを垂さんばかりにうつろな様子が妖艶さに満ち満ちている。一樹がどこまで開発できているのかはわからない。しかし、ここまで乱れた姿を見せてくれている綾乃が眼前にいる。亮介にとって、これは男冥利みょうりに尽きると言っていいだろう。


「どうした、もうおしまい?」


 綾乃の動きが緩慢かんまんになってきた。


「……違うの……どう……か……なりそう……で」



 亮介の頭に、もっと意地悪なアイデアが浮かんだ。


「しょうがないな、全く。お仕置きしないとね」


 後ろに腰を引いた亮介が素っ気なく言う。

 

「出かけるよ。ほら、早く」






  外出と言っても、部屋から歩いて2分もかからないコンビニだ。何か欲しいわけでもないが、ペットへのお仕置きならやはりだ。


(首輪をつけた散歩プレイって、こういう時にするってことか……)


 AVで見たことのある場面がふと脳裏に浮かんだ。


「でも、散歩じゃお仕置きにならないな」


「ん? どうしたの?」


「いや、なんでもないよ。ところで、どう? 続きしたい……?」


 いつもの口調で尋ねた亮介。その目をしっかりと見つめながら、綾乃はゆっくりと深くうなずいた。


「……キュンキュンしちゃった……」


 今にも泣きそうな綾乃。そして亮介自身も、自分の中に新たな芽生えめばえを感じていた。これまで興味を持たなかった加虐系の立場。まだ足を踏み入れたばかりだが、この世界には被虐者の歪んだゆがんだ表情を鑑賞するたのしみがあることを知った。


 

 ◆



 綾乃は、右手で亮介の背中をゆっくりと摩りさすりながら呟く。


「あんなに綾乃さんが乱れるなんて思わなかった。ていうか、ちょっと怖いぐらいかわいかった」


「ありがとう……。全部、なんか全部ね、生まれて初めてって感じだったよ。あたしもなんか怖いぐらい……」




「……うん」


 どうやら一樹も知らないレベルにまで綾乃のドM性を引き出せたようだ。亮介は友からの要請に応えられたこと、そして独占欲を少しだけ満たせたことに満足した。

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