第28話 勝ち負けではないけれど

 ホテルにチェックインできたのが夜8時。機内で眠れたとはいえ、17時間を超える移動はこたえた。荷解きはともかく、シャワーを浴びてリフレッシュしたいところだが、どうしてもチェックしておかないといけないものがある。LANケーブルのジャックを探すが、やはり無い。オフィスでプライベートのヤフーメールの受信をしておいたのは大正解だった。満を持してメールを開く。5、6通受信しているが目に飛びこんできたタイトルはやはりこれだった。



 (綾乃さんについての報告 その1)



「キターーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


 快哉かいさい。思わず声に出してしまった。表題だけで亮介からのメールとわかる。小躍りする一樹。結構な長文だ。1スクロールだけで済みそうにない。

 本文を目で追い始める。まずは綾乃がきちんとことにほっと一息。


「いい子だ、綾乃」


 そして、亮介と自分とのコンビネーションの妙と彼の勘の良さに深く感じ入る。たまに全く見当外れなこともするが、さすがは刎頸ふんけいの友。


「お前を選んだのは間違いじゃなかった。ありがとう」


 小声で画面に呟く。しかし、読み進めるにつれて一樹の瞬きまばたきが増えていく。


「ん……?」



「え……?」


「え、え?」

「うそ……」


 やられた。完全に先を越された。というより、亮介のセンスと度胸にしてやられた。


 もちろん亮介には感謝の気持ちでいっぱいだ。数少ないサインや状況からここまで読み取ってくれて期待通りの動きをしてくれた。いや、違う。期待以上だ。もう既に一樹の思惑を超越したレベルにまで綾乃に仕込んでしまっている。もはや今後の方針について指示を出される立場にあるの一樹なのかもしれない。


 感無量の念と裏腹に、悔しさと惨めさの狭間はざまに漂う一樹。残りあと4日間、綾乃は亮介の手中にいる。その恨めしさや羨ましさ――。


「……」




 言葉を出せずに画面を見つめていた一樹だったが、気になる一行を見つける。


(綾乃ちゃんの画像は何通かにわけて別に送るよ)


「別送……? このメールがその1ってことは……続きが」


 続きは無い。他の4、5通はメルマガとかジャンクメールだった。


「まさか!」


 メールボックスは容量100%に迫る溢れあふれ具合だった。せっかく送ってくれた綾乃の痴態を撮影したであろう画像を見ることができないとは――。


 悶々としながら初日の夜を過ごすしかない一樹だった。

 


 

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