第26話 変態

「よくできたね、おりこう」


「う……うん……」


 目から下は微笑んでいるが、眉だけはくっきりハの字。今にも泣きそうな綾乃を見て、亮介は確信した。


(SMはあんまり詳しくないけど、綾乃さんが超がつくドMということだけはわかるよ、一樹)


 綾乃を遣わつかわせた一樹の意図。どこら辺の上空を飛んでいるのかわからないが、今の亮介にははっきりと回答できる。一樹が帰ってくるまでに、綾乃にはいろいろ学んでおいてもらおうと亮介は考えた。



(あ、これが調教ってやつか――)




「こういうのがいいんだろ、ほら」


 亮介の左手が綾乃の前髪周辺をぐしゃっと掴む。右手はシャッターボタンを押し続ける。


「ぅうう……いやぁ……」


 綾乃の両手はまだ上がったまま。綾乃のこういう従順なところに亮介は嬉しくなる。


「もう疲れたろうから手を下ろしていいよ。そしたらスカートを脱ごうか」


「……え……」




「いいから、早くやりな。ご主人様の言うこと聞けないならお仕置きするよ?」


 従う綾乃。目の前に亮介の腰が迫ってくる。


「欲しいんだろ? これ」


(いくらなんでもベタ過ぎたか……?)


 亮介はちょっと反省したが、表情には出さず、掴んだままの綾乃の髪を前後に揺らした。


「……」




 長い髪を振り乱して左右に首を振る綾乃。


 様々な音が混ざり合う。カメラを置いた亮介の右手は綾乃をもてあそぶ。



 飴と鞭あめとむちのように亮介が今度は優しく問いかける。その度に泣き笑いのような表情で綾乃が頷くうなずく。これを見て萌えない男が存在するだろうか。


「よく頑張ったね、ご褒美ほうびの時間だよ」


「うん! うん!」


 子犬のように狂喜する綾乃の両手をソファの背もたれに持っていく。

 瞳孔が開いているのかまではわからなかった。だが、綾乃の目の色が変わったことだけは確かだった。綾乃がメタモルフォーゼ――変態――した。


一樹より自分の方が優位にある。亮介はそんな気がした。


 

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