第15話 「今、どこ!?」

 ホテルのドアを開けてすぐ、パンプスを履いたままの綾乃は両手を壁に押し付けさせられた。


「え、うそ――」



 ◆



 9時に亮介が迎えに来て以来、綾乃からは何も連絡は無い。上から、二人を乗せた車が敷地からゆっくり出ていくのを見送った時から一樹の興奮は止まらなかった。


「買い物なんて早く終わらせてくれたらいいのに」


 大渋滞でもなければそろそろアウトレットに着く時分だろうと思いながら一樹はコーヒーを淹れる。夕食はピザでも取ろうか。ビールも少しばかり買ってきておこう。携帯に手を伸ばして検索を始める。バッテリー残量が半分を大きく下回っている。充電ケーブルを差し込もうと立ち上がったその瞬間、一樹の左手が強い振動を感知する。綾乃からの着信だった。


「はーい、綾乃。もうい――」


 受話器から聞こえてきたもの、それは綾乃だった。嬌声という表現なんて生ぬるい、もっと切実で鬼気迫る金切り声。




「あぁッ、あぁッ」


「あ、綾乃――! 今、どこ!?」

 

「か、一樹……あた……し、ホテル……」


「買い物してるんじゃなかったのか!? なんで!?」


「りょう……す、亮介……くんが……」


「え? 亮介がなんだって!?」


「亮介くん……が……あああああ」

 

「綾乃――! あ、綾乃――!」


 喘ぎ声に涙声が混じってきた綾乃と、ほぼ涙声の一樹。


「い……い……」


「気持ちいいんだね、よかった。愛してるよ……」


「あたし……も……愛し……てる……ごめん……なさ……い」


「いいんだよ、綾乃、絶対絶対愛してるから、綾乃大好きだから、だから!」




 それは、ほどなくして突如断絶した。

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