第16話 Wish You Were Here

(俺なんてまだまだガキだな――)

 

 過去のどんな上司や先輩に与えられた説教やアドバイスよりも効いた。一樹は自分の未熟さを、ひり付く痛みの中で感じ、学んでいる。電話は想定内だった。負け惜しみではない。


 

 ただ、、無意識にそう考えていた。




 いや正確には、買い物が終わってからどうなるだろう、ということしか考えていなかっただけだ。二人の行動や思考パターン、社会通念、一般論……。確定・不確定要素を含めた総合的な判断のつもりだった。今この場で一つ省みるべきなら綾乃と亮介のデータが最新のもの更新されていなかったことなのかもしれない。それは、二人を見くびっていたこととほぼ同義だ。



 声を上げて泣いた。泣き過ぎて過呼吸になった子供の頃のような嗚咽おえつ。止め処無い感情の発露。力無く絨毯じゅうたんを叩く握り拳。

 

 寝取られとは大いに異なる、貸し出しの怖さ。

 綾乃はここにいず、亮介のそばにいる。

 妻が口にしたのは夫ではなく、他の男の名。


 それでも――。

 

(聞きたい、もっと、綾乃の声、綾乃の音……)


 頬の涙が乾いてきた頃、度こそという思いで充電ケーブルを差す。第三者的な視点ではもはや喜劇だ。



 ◆



 数分もしないうちに携帯の電源が入る。着信履歴ボタンを押そうとしたその刹那、メールの受信アイコンが画面いっぱいに表示される。それを無視しようとして操作したつもりが、うっかりメールを開くことになってしまった。


 画像が添付されていた。本文は無い。


「亮介のやつ……」


 小癪こしゃくな真似をしてくれる。確かに依頼した通り写真を撮影してくれた。それにしてもこんなタイミングで送ってくるとは――。


 躍起やっきになって通話ボタンを押す。


「……は電源が入っていないか、繋がりません。しばらく経ってからおかけ直しください……こちらはNT」


「ちくしょう、なんでだよ! からかってんのか!?」


 亮介の番号にかけても繋がらない。それが更に一樹の感情という炎に油を注いだ。

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