第14話 今すぐ
気持ちの良い秋晴れ。レンタカーをマンション入り口近くに停め、ハンドブレーキを引っ張り上げる。鍵を抜こうとした亮介の視界前方に綾乃が入り口から出てくるのが見えた。あまり見たことのない
「おはよう。あれ、一樹は?」
「おはよう。部屋にいるよ」
「部屋に?」
「夜まではあたしは亮介くんのものなんだって」
メールのやり取りを通して、今日の行き先がアウトレットモールであることは既に伝わっているし、
「ふーん……。そうなんだ」
乗り込んだ綾乃がシートベルトを締めた音と同時にブレーキから足を離す。高速道路の入り口は数分で到着する近さだが、その手前の信号に差し掛かったところで黄信号から赤に変わる。
「まさかこの二人でドライブデートすることになるなんてね」
「うん……ほんとだね」
「今日は何か買いたいものとかある?」
「特にはないかな。でも、なんか今日楽しみにしてた。亮介くんは?」
「俺もすごく楽しみだったよ。あ、違う、買いたいものか……うーん、俺も特にないんだな」
不思議に、この二人はなぜか符合することが多くある。会話していてもそうだし、ファミレスで選ぶメニューが一致したり。血液型については3人とも同じだが。
「あはは、二人とも無いんだ。でもモールに向かうっていう」
あの夜が無かったかのようないつも通りのスムーズな会話。現地までは1時間強。この調子なら楽しい会話であっという間に到着となるだろう。出会う順番がこうでなければ間違いなくいいカップルになっていただろうと亮介は確信している。しかも、体の相性も良いようだ。
綾乃はどう思っているのだろうか。
お嬢様育ちの清楚で優しく穏やかな女性。そしてそのウブさ加減とお淑やかさ。しかし、一夜を共にして、綾乃に対する亮介の見方は変わった。そして枕元では足りなかった時間が今ここにある――。
「ところでさ、よく寝取られの話にOK出したよね。綾乃さんのイメージからしても対極って感じするから本当にびっくりしたよ」
「あ……うん、そう、だよね」
話題がいきなり、しかも今の二人にとって最もデリケートな話題に変わったので綾乃のトーンが落ちた。
「あれから夫婦としてはどう? まさかまだ倦怠期ってことはないよね」
「……うん。大幅改善……かな」
「そうなんだ」
この夫婦は今どんな状況に有り何を求めているのかもそうだが、自分は何を期待されているのか、それを亮介はずっと考えている。
「なんかあれ以来、一樹も変わったんだよね……」
ほぼ核心に近づけた気がした亮介は、ウインカーを左に出し車を側道へ向けた。
「綾乃さん、俺もう我慢できないかも」
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