第5話 悔恨

 亮介は窓を背にして綾乃に添い寝する。一樹からも綾乃がよく見えるはずだ。


「あ……」


 亮介は、手のひらの微かな感触で横腹を這わせ、二の腕から肩へと伝わせる。そこから生まれた温もりに包まれて、綾乃の不安はいつのまにか消えてなくなっていた。


 経験の多くない綾乃にとって、亮介はまさに新世界だった。

 綾乃の背筋に電流が走る。まるで、近くで誰かに急に大声を出されてゾクっとした時のようにる綾乃。

 一樹の喉がゴクリと鳴る。それは、綾乃と亮介の耳にも入るほどの大きな音だった。

 亮介は、一樹の嫉妬の炎を更に焚き付けようと考えた。

 

「綾乃さんかわいい、最高だよ。大好き」


「そんな……ダメだよ」


 泣きそうな声。両手で顔を覆ってかぶりを振る綾乃に、一樹だけでなく亮介も萌えた。


 亮介は綾乃の半身を起こして抱きかかえ、夫婦が互いに向き合うように座らせてあげた。


 一樹は上気してクラクラしていた。

 

 綾乃が声を震わせる。節目がちだが時折一樹と目が合う。つい瞼を閉じてしまう綾乃。それはいじらしく映ると同時に、普段の自分に見せる姿とは違っている――。一樹はそのことに腹立たしさや絶望を感じた。


 一樹の中で、アンビバレンスな二つの感情が戦っている。


 嫉妬で気が狂ってしまいそうだ。

 もうたくさんだ。

 二人を引き離してしまいたい。

 

 だが、言い出しっぺは自分だ。

 ここで撤回するのはあまりにも身勝手過ぎる。

 綾乃だって、私の無理な願いを受け入れてくれたじゃないか。


 頭を抱えても、この現実から逃げられはしない。


(どうしよう……本当にどうしよう……)


 どれほどの間うつむいていたのかはわからない。そこに、聞いたことのない綾乃の声が耳に飛び込んでくる。一樹は思わず反射的に首を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る