2杯目 喜びとカステラについて
「カステラを一つ」
今日もロン毛のお兄さんが私の対面に座ってきた。彼は微かに微笑んていた。けどその眼光は鋭い。私は何を言われるのか不安だった。
カステラって日本発祥なんだよ。16世紀にポルトガルから菓子ものが伝来してきたけど、日本人はそれをアレンジしたのだよ。名前は洋風だけど、洋菓子というのは、明治時代の後に入国したものだから、実は和菓子なんだよ。
それでね。喜びはカステラと似ている。喜びを型に流して焼くと、型通りになってしまう。そして、誰も丸いカステラを考えないように、丸い喜びを考えない。私なりのカステラを考えない。私だけの喜びを考えない。喜びは喜びでしかないのだ。喜びはカステラと同じで、惨めな存在だ。
しかも、喜びは楽しいと快いとは違うのに、僕らはそれを区別しない。それくらい、僕らは喜びを求めているが、極めて喜びに無関心だ。楽しいは解放だ。なんの制限も受けず、楽しいは青空に浮かぶのだ。快いは未来だ。きっとそうなる未来が見える、快いは慣習に従った踊りだ。
喜びは緊張だ。笑いで体が硬直し、笑いの解放を求める。だから喜びの果てに快いがあるのさ。カステラも長方形でしか認識されないようにね。
変な人だ。
深夜のファミレスで知らないロン毛のお兄さんから、学校では絶対にやらない哲学を学んだ話 張ヶ谷 俊一 @5503
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