深夜のファミレスで知らないロン毛のお兄さんから、学校では絶対にやらない哲学を学んだ話

張ヶ谷 俊一

1杯目 始まりと紅茶について

「ここ座るね」


 私がいるボックス席に、一人の若いお兄さんが座った。


「すみません!紅茶を一つお願いします」


 テーブルを挟んた向かい側に、知らない男性がいる。シャープな輪郭。鋭い眼光、やさしい微笑み。とても気まずい。しかも清潔感のないロン毛。


「ごめんね。席が空いてなくて」


 普通に空いている。深夜の一時のファミレスが混むわけない。


「君が飲んでいるのは、ダージリンだね」


 彼は前のめりになって、私のカップを覗き込んだ。その動きはやんちゃな小学生。全身でスタッカートを刻んでいたようで。そして、よく分からない話を始めた。


 紅茶って種類にもよるけど、一杯なら三グラム程の茶葉をティーポットに淹れて、三分くらい待つ。それから右手でポットを、左手で茶越しを持って注ぐ。最後の一滴まで注いて完成。

 物事の始まりは紅茶に溶け込んでいる。曖昧なものだ。もし三分ぴったりに時間を計っても、君が紅茶を注ぐときには、数秒のずれがある。君が時間通りに行動したと思っても、そこには決して感じ取れない、ズレがある。

 なぜだと思う?それは君が真面目で神経質な性格だからだよ。


「お待たせしました。紅茶です」


彼は私を見つめながら、紅茶をゆっくりと啜った。

 

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