第60話 降り積もる桜の下で、君と一緒に。

三年後


休日なので、桜並木の通りを歩き、公園まで遊びに行く。


桜が咲く春の道を、先に二歳の子供を連れてナツが歩いていた。


横には、赤ん坊をベビーカーに乗せたトールがいる。





産むペースがおかしかった。


子どもなんてこんなハイペースで産むもんじゃない。それが今の感想だ。


ただ、二人の仕事の状況は順調で、シッターさんを雇う余裕があったのでとりあえず心身の余裕はあった。


今は、連続して産むと子宮が破裂するリスクが上がると警告されたので、間を空かすことになっている。


お腹の皮も元に戻って良かった。もうダメかと思った。



三人で結婚したという事実は、二人目の子供が生まれてから、双方の親に伝えた。


なんとなく、どちらも違和感に気付いてはいたらしく、すんなり受け入れられた。


結局、現状が上手くいっているのなら、どうでもいい事柄なのかもしれない。






「ユーキ君、ユリちゃんと今朝電話してたけど元気だった?」



一年くらい経って敬語がとれたトールは笑ってこちらを見た。



「元気だった。もうすぐ二人目の予定日だって。仲良くやってるみたい。幸せそうだった」


「ユーキ君は幸せ?」


「うん。幸せだよ。トールは?」


「今が一番幸せ。幸せって上限が更新されるらしいよ。ノーベル賞とれるかな」


「イグ・ユーキ賞くらいならとれると思うよ」



笑い返して、幸せなら良かったと思う。



「ふとした瞬間にね、あ、自分って幸せなんだって思うんだよ。女と遊んでた時は逆だったのに」


「結局、やっぱり誰といるかが大事かもしれないね」


「変わった形だけど、これで大正解だった」


「私もそう思う」



桜の花びらはひらひらと舞い落ちて、地面に降り積もる。


道の端でしゃがんでいた二歳児が動かず、ナツに追いついてしまった。



「ねぇ、ユーキ! 石拾いブームっていつ終わんの?」



しゃがんでいたナツがこちらを見て嘆く。



「子どもはそういう生き物だからねぇ」



腰を落として、小さい頭を撫でる。



「大樹、公園で遊ぶ時間なくなっちゃうよ」



話しかけると、よく分からないという顔をしたあと、よたよたと立ち上がって歩き出した。


小さな背中に付けた蜜蜂のハーネスがゆらゆら揺れる。



「さっきなに話してたの?」


「今も幸せだよね~って話してた」


「わかる。桜みたいだわって時々思う」


「桜?」


「桜の花びらってハート型なんだよね」



目の前で舞い落ちる桜の花びらを見ると、確かにハート型だった。


公園に近く桜の量が多いのか、桜の花びらで薄ピンクの地面になっている。


古い花びらも、くしゃくしゃな花びらも、新たに落ちる花びらで隠され美しかった。



「私たちの思い出もこうやって積もったらいいね」



笑いかけると、二人も舞い落ちる桜の中笑う。



十年、二十年、死が別つまで、雪のように、桜のように、降り積もればいい。


それが、人生の最後に見て美しい景色だと思える記憶であるように。


そうすれば、きっと死ぬまで幸せだ。



「なると思うよ」


「人数も多いしね」



公園に向かいながら二人は言う。


私も答えるように微笑み返した。








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美女と入れ替わったモブ男は2人に溺愛されて困っています! 花摘猫 @hanatumineko

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