第29話 ユリちゃんの趣味と耐久チェック
金曜日
流れとか興味本位でいいと言ってしまったが、本当に良かったのかな。
今日は、傍から見てわかるほど、二人の態度は変わっていた。
トールは謎にキリっと仕事をしていたし、ナツは注意散漫だった。
ということは、自分もそうなのだろう。
気を引き締めているので、目立つミスはないと思うが、ちょっと不安だった。
夜八時。
みんなキッチリ仕事を終わらせたので、今日は、トールの家にみんなで泊まる。
ベッドが広いし、部屋も広いし、防音されているらしい。
考えてみれば外からの音が聞こえないなと思っていたが、家賃が高そうだなと思った。
今日のご飯は、から揚げとお寿司だった。
野菜もいるだろと思って、カット野菜も買ってきたので、健康にもいいだろう。
なんだこのパーティーメニューと思いながら三人で食べる。
ナツは手の骨折が治ったらしく、もう手の固定がなくなっていた。
「そういえば俺、家を決めたから、出ていくわ」
突然ナツが切り出した。
「えっ、急だね」
「なんかキスとかしてたら、性欲がやばい。気を抜くと持崎部長と同じことになる」
それは恐ろしい
「我慢してくれてありがとう」
「なんかサラッと悪口言ってません?」
「事実は悪口とは言わない」
「今は口だからまだいいけど、先のことを考えるとさ」
「いつ頃引っ越すんですか?」
「来週くらいだと思う」
早いな
「必要な書類揃えておいてよかったね」
「うちのお母さん、元気になってきたけど、保証人にはなれないな」
「賃貸保障会社に頼めばいいよ。っていうか僕の身体だし、それしかない」
ああでも、身体が違うってことは賃貸契約変えなきゃいけないんだ。
「こっちも契約変更か……だるい~」
「なんか大変そうなので、ユーキ君。私と籍入れません?」
「ぬけがけはやめてもらおうか」
もりもり食べながら、三人で話す。
話は今週末の話になった。
「今週末、どうする? 明日は念のために空けといたけど」
「私は特に決まってませんね」
「あ、僕、日曜はユリちゃんちに掃除しにいく」
「明後日、三宅さんの家に行くんですか?」
トールは訝し気な顔をして、こちらを見る。
「うん。部屋綺麗にして、お守りもらってくる」
「考え直しませんか? 三宅さんはちょっと」
「友達だから大丈夫だよ。なんでそんなにユリちゃんに悪い感情があるの?」
トールはわりと人の悪口を言わない方だと思う。
だけど、ユリちゃんの時は毎回嫌な感じだ。
「確かに。友達だった持崎部長がむっつり激重感情だったんだから気持ちは分かるけど、過剰だよね」
「なんでこっちに矛先がくるんだ。違うんですよ。うーん」
心外だという感じで、トールが唸る。
「ああ~、まぁいいや。話しましょう。ユーキ君、佐倉君って覚えてますか?」
言われて思い出す。
二年前にやめた後輩だった人物だ。
陰キャで大人しいという感じではあったが、遅刻もなくまじめだった。
「覚えてますよ。なんか急に会社に来なくなって辞めましたよね」
「あの人は三宅さんと付き合ってたんです」
ええ? まぁでもユリちゃんみたいな可愛い子がいたらすぐ堕ちるよな。
僕が落ちなかったのは、そこまで接点がなかったからで。
「来なくなった時に様子見に行ったのが私だったんですが」
そういうと、先輩は思い出すように視線を動かし、顎に手をやる。
「いやー、あれは」
言いにくそうな感じだった。
「何があったんだ」
僕の言葉に、先輩は決意したように口を開く。
「精神と肛門が壊れてたんですよね……」
「は」
「おもろっ。なんだそれ。なんでそうなったんだよ」
息をのむ自分とは対照的に、ナツは笑って大きくパチンと手を叩いた。
「佐倉君が言うには、三宅さんのせいらしいんですよね」
そういえば、加虐趣味があるということを言ってたな。
「あ、ユリちゃんの。そういう趣味ってことか」
「なに冷静に受け入れてるんですか。そうなるかもしれないんですよ」
「ならないよ。女だし。それにたぶん、それユリちゃんのせいじゃないよ」
ユリちゃんに加虐思考があったとして、そんな他人をぶっこわす程の人じゃないと思う。
「僕はユリちゃんを信じるよ。だから二人も信じてほしい」
「ユーキ君」
心配そうなトールとは反対に、ナツは大きく伸びをする。
「本人が信じたいなら仕方ないけど、もし万が一、先を取られるのは癪だな」
「先を取られるってどういうこと?」
「悪戯されたらってこと」
「ないよ! ユリちゃんはそういうんじゃなくて友達だよ」
「私の前例があるので。なんならエクストラの社長さんも少々怪しい」
トールが目をそらして言う。
確かに……。
でも、ユリちゃんは違うと思う。
「ま、今日は悔いないように、耐久チェックしよう」
「耐久チェックって」
「俺らがどのくらい欲に耐えられるか。一応持崎部長と話しあったやつあるから見る?」
「そうですね。これでOKか教えてください」
スマホを見せられる。
そこには、二段階くらい飛ぶような内容と、許可があればという特別項目が書いてあった。
内容としては、服の下を触っていいくらいなもので、下半身にいたっては布の上レベルの話ではあるが。
こんなの途中で確認とってほしい。
事前は恥ずかしすぎるだろ。
「やだっていったら途中で止めてくれんのコレ」
「それはそうですね」
「片方が止まらなかったら、片方が止めるから大丈夫だと思う」
そういえば監視って言ってたな。
「三宅さんに先越されるのは、確かに癪ですから、今日がいいですね」
「ユリちゃんとそういうことする気はないんだけど!」
ユリちゃんだって同性は違うだろうし、友達!
まぁトールがこんなんだから、説得力がゼロだけど。
ユリちゃんも、なんでそんな趣味があるんだ。遊ぶだけで苦労する。
「そういえば、気にしそうなんで防水シーツ買いましたよ」
なんだよそれ。怖い。
この前よだれまみれになったせいかなと思う。
うーん、うん。
迷っても、もう仕方ない。
いい。もういいや。二人を信じよう。
「分かった。けど、あの、ゆっくり優しくで」
二人がこちらを見てから、赤面して目と顔をそらす。
なんで目をそらされたのか分からないまま、恥ずかしくなって下を向いた。
それからの展開はわりと早かった。
適当に三人とも体だけシャワーを軽く浴びる。
トールの上着を来てベッドまで行くと、二人がベッドに並んで座っていた。
「ユーキ君が真ん中ですよ」
「ユーキ、おいで」
目に見える甘い罠だなと思う。
でも、かかりたいと思ってしまったから、もう悩むだけ無駄だ。
真ん中に座ろうとすると、流れるようにトールからキスをされる。
「あ」
声が漏れる。
そのまま快楽に飲まれてしまった。
キスしたと思った後はあまり記憶が定かじゃない。
ただ、今までのことが飛ぶくらい凄かった。
二人は互いを監視すると言っていたが、助け合っているようにも見えた。
人に見られるのも恥ずかしいし、生理的な涙を見られるのも恥ずかしい。
初めてだったら違うのかもしれないけど、この身体は快楽に弱いんだと思った。
最後は意識がなくなったのか、おぼろげにしか記憶がなかった。
夜中、目を覚ます。
「起きた。ユーキ君、大丈夫ですか?」
「寒くない? 着替えさせらんないからさ」
「……?」
ぼーっとしながら二人を見る。
「脱水症状かな。水飲ませよう」
ナツが片手でこちらの上半身をもちあげ、ペットボトルの蓋を歯で開けると口に含む。
そしてそのまま口づけてきた。
生ぬるい水が、体内に流れてくる。
「……自分で、のむから」
起きてきた頭で、ペットボトルを受け取る。
身体を見ると、汗なのかよく分からないが、服が全体的に湿っていた。
「今日は着替えてそのまま寝た方がいいと思うけど、どうします?」
「臭くなるから、シャワー浴びたい」
「わかりました」
そういうと、トールは僕を抱き上げる。
「重くない?」
「重くないですよ。こちらこそ、余裕がなくなって無理させました」
風呂まで連れていかれて、替えの下着と服を渡される。
(なんかこんなの、本当に女の子だなぁ)
照れながら、シャワーを浴びて、そのままうずくまる。
温度の低いお湯が気持ちよかった。
と、その日は満足したのだが。
とりあえず、二人が罰金払わないで済んだのは良しとして、次の日も似たような感じになった。
これじゃ、こっちの耐久チェックだ。
やっぱり二人と住むのは無理だ。死んでしまう。
明日ユリちゃんち行くのきついなと思いながら家に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます