第10話
「おい!止めとけ!行かせてやれ」
グレソは郊外に向かって歩き出した。
「あいつはおそらくPTSD、いわゆる精神を病んじまっている。心の病気だ。そうじゃなきゃ今時、たった一人で生きようなんて酔狂な真似、できるはずがねえ」
「心の病気ね、死にぞこないのメンヘラ君か」
「ぎゃーっはははは!」
グレソは嘲笑を背に受けながら歯ぎしりをした。
(ふん、死にぞこないのメンヘラ君か、くそったれ)
グレソは教会の前まで来ると石段に座り込み目を閉じた。
突然、脳裏に魔法陣の出来事が蘇ってきた。
「逃げるな! 仲間を置いて逃げるな!」
ノウキンが戦場で怒りと嫌悪に満ちた眼差しでグレソを罵倒している。
「お前は何がしたいんだ! 戦うんだろ!」
ノウキンは喉元まで迫ってきて、グレソの襟首をつかんだ。
「違う、逃げたんじゃない!何故か転送に失敗して」
グレソは必死に言い訳しようとしたが、ノウキンは聞く耳を持たなかった。
「戦う気がないなら戦場から去れ! 仲間を見捨てるとはどういうつもりだ!」
今でも鮮明に蘇ってくる。
あの時の自分の無力さと恥ずかしさが、今でも心を蝕んでいる。
ふいグレートソードを振り上げた。
衝動的に何でもいいからぶっ壊してやりたくなった。
目の前に女神の像が置いてある。
顔面に向かって振り下ろした。
寸止めで空気が揺らぐのを肌で感じた。
背広を着た労働者と思わしき人が気味の悪いものを見たように足早に去っていった。
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