戦い
ガリッ!
俺は変身して、ひとまず総司を守るようにして前に出た。
「え、何!?」
「敵だ」
「敵!?」
「説明している時間はない。急いで海水浴客に混じって逃げろ」
俺はそう言って総司の背を軽く押してから、怪人と距離を詰める。そして、スーツに埋め込まれている無線を通じて司令部に連絡をする。
「海水浴場で怪人発見。タコのような姿をしている。至急応援願う」
「待て、何故お前が今の時間海水浴場にいるんだ」
司令官がもっともなことを言うが、そんなことに構っている場合ではない。
俺はひとまず通信を切ると、改めて怪人と向き合った。
「どうせお前に俺の相手は務まらん!」
怪人はそう言うと同時に、タコ足で俺を薙ぎ払おうとした。俺はその足を殴り返すと、そのまま回し蹴りを入れる。
けれどそれは受け止められてしまう。けれど俺も負けていられないので、更にもう一撃食らわせた。しかしそれも受け止められてしまったので、今度は距離を離すようにして離れた。
「はっはぁ、そんな攻撃じゃ痛くも痒くもないぜ」
「そうか。ならばこれでどうだ」
俺は思い切りジャンプをして、怪人の頭上に飛ぶとそのまま足の爪を伸ばしたままで回転蹴りを繰り出した。するとタコ足は切り落とされて、彼は痛みからか声なき声をあげる。そしてよろめいた隙に、俺は彼の体を地面に叩きつけた。
「……っ!」
「まだやるか?」
「当たり前だ……この俺が、負けるわけが……」
「じゃあ、もう終わりにするか」
俺は、彼がこれ以上戦う意思がないのを分かっていた。だからあえて、そう言う。
「……クソが!」
彼はそう吐き捨てると、海の中へと走って行ってしまった。タコの足がないまま泳げるのだろうかと思ったが、すぐに関係ないことだと思って連絡を再開する。
「戦闘終了。もう戦う意志はないようだったから、きっとアプリを消すと思われる」
「分からん。確認するまで追え」
「……それこそ応援に任せればいいんじゃないか?」
「お前は応援をなんだと思っているんだ」
「普段なら俺、授業中だし」
「海水浴場にいるんだろう。いいから、早く追え」
「おい、大丈夫なのかよ!?」
司令官が早く追えと言ったのと同時に、総司が俺のところまでやってきた。両肩を掴まれて、揺さぶられる。
「あ、ああ、問題ない……」
「一般人が近くにいたのか? ちゃんと逃せと言っているだろう」
「逃げろと言ったはずが……」
「友達を置いて逃げれるかよ!?」
「友……?」
まだお互いの名前を知ってから数時間しか経ってないのに、友達と呼んでいいんだろうか。俺はそれが分からず、思わずフリーズしてしまった。
俺の反応とは対照的に、司令官は薄く笑った。司令官が通信越しに笑うのは珍しいので、思わず我に返る。
「……なんだ。友達が出来たから、一緒にサボって海水浴か? お前も人間らしくなってきたじゃないか。今日はその友達とやらに免じて、これ以上の追跡は応援に任せることにする。友情に感謝するんだな」
そう言えば満足とでもいったように司令官は通信を切った。それに合わせて、装備も即座に引っ込んだ。どうやら今日は、甘く見てくれるらしい。それも滅多にないことだから、よほど友達というものはすごいようだ。本当に友達なのかは、聞いてみないことには分からないが……。
「……よく分からないけど、ありがとう」
「ど、どういたしまして……?」
そのまま総司は、へにゃへにゃと脱力したように砂の上に座るのだった。
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