2日記 旅立ちと新天地

「シロちゃん、お料理上手だね!?」

「そうですか?」

「うん、すっごく美味しい! シロちゃん、十一歳だよね?」

「はいなのです! まだまだはってんとじょー、なのです!」


 夜になり、シロは料理をご馳走するのです! と言って、ルーシェのために腕によりをかけた料理を作り出した。

 ちなみにメニューは、昨日酒場のおばちゃんに教えてもらった料理。


「しかもこのアジフライの揚がり具合は完璧だし、タルタルソースも美味しい……私、びっくりだよ~」


 もぐもぐ、と食べる手を止めずにシロの料理をべた褒めするルーシェ。

 そこでふと、シロはルーシェが口にした料理名に疑問符を浮かべる。


「あじふらい?」

「うん、あれ? これ、アジフライだよね? 私、これ好きなの」

「それ、昨日酒場のおばちゃんに教えてもらった料理なのです。料理名は今初めて聞きました!」

「あ、そうだったんだ。なるほどね……」


(これも、交流の結果の一つなんだろうね……まあでも、美味しい物が食べられて、私は満足だけど)


 もぐもぐ、と美味しいアジフライに舌鼓を打ちながら、ルーシェはそう考える。

 美味しければいいじゃない。


「はむはむっ……んっ、じょうできなのです!」


 目の前に座り、同じようにアジフライを頬張るシロは、自身が作ったアジフライの出来に満足しているようだった。

 さらに言えば、そのアジフライがかなり美味しく感じたのか、夢中になって食べているシロ。

 そのシロの口の横に食べかすが付いており、ルーシェは少し微笑ましい気持ちになりながら、ポケットからハンカチを取り出し、口元を拭う。


「シロちゃん、あんまり急いで食べると、せっかくの可愛いお顔が台無しだよ?」

「うにゃぁ、うにゃぁ……」

「うん、これで綺麗になった」

「ありがとうなのです、ルーシェおねーさん!」

「ふふ、これくらい全然いいよ。ご馳走になっちゃったしね」

「いいのです! シロはルーシェおねーさんに食べてほしくて作ったですから!」


(屈託のない笑顔で言われると……やっぱり、嬉しい。なんだか、ほっこりするしね)


 シロの笑顔に癒され、シロの手料理にも心身共に癒され……ルーシェはこの状況にとても満足するのだった。



 それから夜。


 いきなりお邪魔してしまい、果たして布団はあるのか、という疑問がルーシェにはあったが、幸いにも昔使われていたベッドを残していたため、なんとかなった。


「ルーシェおねーさん」


 そして、交代で水浴びをしてから、布団に潜り込んでから数分後、シロがルーシェに話しかけてきた。


「なぁに?」


 その呼びかけに、ルーシェは優しい声音で聞き返す。


「……シロ、家族がいないのです」


 しかし、次に放たれたシロの一言に、ルーシェは体を一瞬震わせた。

 ドーズンから聞いていたとはいえ、やはり本人の口から聞くのとでは、微妙に違うものである。

 ルーシェもどう反応していいかわからず、無言になる。


「……村のみんなにやさしくしてもらって、森のおともだちたちとあそんで……シロ、その生活を毎日しているのです」

「……うん」

「シロ、今も楽しいです……でも、寂しいのです……家族がいないのです……」

「……うん」

「……シロ、アベリア学園に行けば、一人じゃなくなる、ですか?」

「……もちろん。学園にはいい人がたくさん。私もいるし、シロちゃんと同い年か近い年の人もいるよ」

「……ほんとですか?」

「嘘はつかないよ。それにシロちゃんはきっと、たくさんの人に囲まれると思う」

「……シロ、囲まれる、ですか?」

「……うん。シロちゃんはとっても優しい子。だからきっと、お友達になれる人がいっぱい現れるよ」


 そう言うと、シロは少しだけ目を閉じて、そして決心したように目を開いて、ルーシェに告げた。


「シロ、アベリア学園に行くのです!」


 と。


 それを受けたルーシェは、それをしっかりと心で受け止め、言った。


「……うん。わかったよ。じゃあ、明日は早速旅の準備をしないと、だね」

「はいなのです! じゃあ、シロはもう寝るのです! おやすみなさいなのです!」

「うん、おやすみなさい」


 そうして、二人は眠りについた。

 この時のシロは、いつもよりもなぜだか寝つきが良く、ぐっすりと眠れたのだった。



「じゃあ、みんな、行ってくるのです!」

「あぁ、頑張ってな、シロちゃん。手紙、待ってるよ」

「頑張るんだよ! それと、レシピも大方渡した本に書いといたからね!」

「ありがとうなのです!」

《シロ、行っちゃうのー?》

《寂しい……》

《またもどってくる?》

「もちろんなのです! 約束なのです!」


 あの日の翌日。


 シロとルーシェは早速旅支度を始めた。

 幸いにもと言うべきなのか、シロの私物はあまりなく、すぐに準備は終了。


 その後は、村の人たちへの事情説明。

 ルーシェ的には、最悪反対されるのではないか、そう考えていたのだが……それは杞憂に終わる。

 何せ、村の者たちは軒並みシロの旅立ちに涙を流して喜んだのだから。


 それに思わずあっけにとられたが、その理由をルーシェは村人たちから聞いて、大いに納得した。

 というのも、村人たちはシロの夢に気付いており、いつか外の世界を出ることを村人たちも期待していたのだ。


 その日が思った以上に早く来たが、遂に来たのだ。

 それ故、シロが外の世界へ出ることになるきっかけを作ったルーシェに、村人たちは心の底から感謝した。


 ありがとう、と。


 そして、シロの旅立ちが決まるなり、村を挙げての宴会へと突入。

 その間、シロは村人たちから色々なプレゼントを貰っていた。


 と同時に、その宴会にはシロが遊んでいた精霊たちも顔を見せており、精霊もシロに何か不思議な宝石のようなものをプレゼントしていた。

 シロはそれを少し涙を流しながら笑顔で受け取った。


 そして現在。


 遂にシロの旅立ちの日。

 見ての通り、シロの見送りには村人全員と、精霊たちが来ていた。

 各々がシロに激励を送る。

 シロはそれを寂しいような、それでいて嬉しいような表情で受け取った。


「シロちゃん、そろそろ行こっか」

「はいなのです!」


 ルーシェの言葉に、シロは返事をすると、同時に村人たちに最後の挨拶をした。

 すてて、とルーシェの下に駆け寄り、ルーシェの箒に跨り、ルーシェの腰に抱き着く。


「頑張れよー! シロちゃん!」

「楽しんでおいでー!」

《またねー!》

《元気でねー!》

《約束守ってねー!》

「はいなのです! シロ、行ってくるのです!」


 ふわり、と空に浮かび上がる。

 徐々に高度を上げていき、シロは見えなくなるまで村の人たちに向かって笑顔で手を振り続けた。


「じゃあ、しゅっぱーつ!」

「ごー! なのです!」


 二人の楽し気な声を置き去りにして、二人はアベリア学園に向かって飛び去った。



 二人が去った後、シロが見えなくなったこと確認した村人たちは寂しそうにしながらも、嬉しそうに自分の家や店に戻って行った。


 しかし、そこには二人の村人が残っていた。

 八百屋のおじさんと、酒場のおばちゃんだ。


「遂に行っちまったか……」

「寂しくなるねぇ」

「まあでも、ここでずっと過ごすより、今旅立った方がいいさ。シロちゃんはあの二人の子供だしな」

「そうね。シロちゃんなら、持ち前の明るさできっと人に囲まれるはずね。……一つ心配があるとすれば……」

「……いやまあ、その辺に関しては、あの二人と俺たちが原因だが……ま、なんとかなるだろ! 最悪の場合、ジュアルドさんが責任とってくれるだろうしな!」

「それは無責任じゃないかい? ……ま、シロちゃんはかなりあの魔女さんに懐いていたみたいだし、大丈夫かね」


 そんな会話があったが……飛び去った二人は知る由もない。



 アベリア学園へ向かった、ルーシェとシロの二人は、道中の村々に寄りながらの移動となった。


 ルーシェの最高飛行速度はかなりものであり、学園からはかなりの距離があるシロが暮らしていた村からであったとしても、二日程度で到着するが、それはシロの体に負担がかかりすぎる、というルーシェの気遣いにより、なるべくゆっくりのペースで飛んでいた。


 まあ、もう一つの理由として、


「わわっ、すごいのです! 外の世界は広いのですよ!」

「ルーシェおねーさん、ルーシェおねーさん! あれは何でしょうか!?」

「はわわっ、あれが本物の魔物さんなのですね! ちょっぴりかわいいのです!」


 初めての外の世界で、シロのテンションがかなり高くなっていたことも理由の一つだ。


 途中、空から地上を見下ろした際、シロの見たことのない物がいっぱいであったため、シロはそれにあれこれと目移りしてしまったのだ。

 そんなシロの様子に、ルーシェはほっこりし、せっかくだからと、ゆっくり飛ぶことにしたのである。


 ルーシェから見ても、シロはかなり……というか、とびきり可愛らしいため、もしかすると人攫いに遭うかも知れないとも考えたが、そもそもティルク大陸にいるのは獣人族ばかりであること思い出し、大丈夫だろうと思った。


 仮にそんなことが起ころうものなら、自身の魔法で守るつもりであるが。

 二人の旅は和やかに進み、村を出てから実に二週間ほどで遂にアベリア学園が存在する島に到着した。



「はわぁぁ~~~~っ……!」

「ようこそ、アベリア学園へ! ……って、私も去年入学した生徒だけどね」


 歓迎の言葉の後に、てへ、と笑みを浮かべながらそう付け加える。

 しかし、今のシロにそれはほとんど聞こえておらず、目の前にそびえたつ大きな建造物や、その周囲の環境に目移りしている様子だった。


 シロの視線の先には、レンガ造りの巨大な建造物があった。

 高さは五階建てで、横にも大きく、同時に、奥行きもなんとなく感じていた。

 空を飛んで来たので、上からの様子も少しだけ見ていたのだ。

 おかげで、シロの期待値はぎゅんぎゅん上がっている。


「こ、ここがアベリア学園なのですね! すごいのです、すごいのですっ! あっちにも、こっちにも……! シロの知らないものがたくさんあるのです!」


 瞳をきらっきらと輝かせながら、シロは興奮したように声を上げる。

 あっちを見ても見たことがない人や、見たことがない道具や食べ物が売っている、その状況にシロは興奮しっぱなしだ。

 しかし、そんな興奮した様子のシロと、一緒にいる相手がルーシェであるという点から、かなりの注目を周囲から集めていた。


『あれって、獣人族……? なんでこんなところに?』

『つか、ルーシェ先輩と一緒ってことは……推薦者か保持者か?』

『いやいや、そんなことよりも……可愛くね?』

『わかる。獣人族って初めて見たけど、あんなに可愛いのな』

『何あの可愛い子! すっごくもふもふしたい!』

『くっ、是非ともお友達になりたいっ……!』

『けど、一緒にいるのがルーシェさんなんて……』

『まあでも、ルーシェ先輩と一緒にいるのなら、多分可能性があるはず!』


 と、男女関係なくシロは非常に目立っていた。

 可愛らしい容姿に、声をしているからか、大体の評価が可愛い、というものであった。


「ルーシェおねーさん、それでそれで、シロはどこに行けばいいのです?」

「あ、そうだね。じゃあ、付いてきて。こっちだよ」

「はーいなのです!」


 シロはルーシェに案内され、学園内へと足を踏み入れることになった。


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 場面転換多いなぁ……。

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