第1章 砂漠の国から落っこちた 第2話
オアシス都市バーブ。都市とは名ばかりで、街の周りをぐるりと歩いても1時間かからぬ程の小さな街だ。湖を中心にしたこの小さな街は、砂漠地帯の貴重な休息地である。
中央の湖から放射状に細い通りが伸びている。通り沿いに並ぶ日干しレンガ造りのシンプルな建物は、多くが宿泊施設や飲食店だ。
街の北側に降り立った私は、ダンちゃんの案内で街の西の外れの『とあるばーさん』を訪ねるところだ。
ジャリジャリと通りを歩きながら、途中ダンちゃん馴染みの店で買ったザクロジュースを喉に流し込む。
爽やかな甘さと酸味、何より冷えた水分が全身に染み渡る。
「で、例のものはちゃんと持ってきたんだよな?」
「うん。もちろん。」
私は肩から斜めがけにしてお腹の前にぶら下げたバッグにそっと手を添える。
「何か新しい手がかりでも見つかればいいんだけど…。」
「ま、期待しすぎず気楽にいこーや。」
ダンちゃんの大きな手がポンと頭を撫でる。
「うん。」
バッグの中にあるのは、パパが最後にくれた私への誕生日プレゼント。
それは手のひらに乗るくらいの小さな寄木細工の木箱で、ドーム型の蓋を開けるとパパからのバースデーカードが入っていた。
『イード・ミラード・サイード!』
13歳の誕生日。遺跡発掘のため砂漠の国に滞在中だったパパから届いた美しい小箱に異国を感じながら、祖母と2人でホールケーキをたいらげた。
その3日後。ダンちゃんからの電話に、受話器を握りしめたままヘナヘナと座り込んだ祖母を見て、何か悪いことが起こったのだと悟った。
あれから5年。
父の痕跡の残る砂漠の国に私は立っている。
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