9
左手の腕時計に視線を落とすとちょうど短い針が8に差し掛かっている。19時にスタートしたから、約一時間たったのか。
(まだ一時間…。これ、終わるの何時になるんだろう)
三分の一ほどになったオレンジジュースをぐいっと呷ると、氷で薄まっていて少し不味かった。
新入生は半額なんだし楽しまないと損だと思い、そのまま料理にもお箸を伸ばす。初めのうちは皆料理に夢中になっていたのに、慣れてくると会話も弾み、席替えし始めて気づけば綾ちゃんもあんな遠いところに…。
せっかくの料理も冷め始めてて、店員さんにも申し分けないよね。と誰に言うわけでもない言い訳を心の中でしながら一人黙々箸を進めた。
「こんにちは〜。三年の牧村です〜。一年生だよね?名前聞いていい?」
不意に右後ろから声をかけられ、振り向けばビールジョッキを片手に笑う女性。
「あ」
見覚えのあるこの人は、門の前のダンスでずっとセンターにいた人物だった。踊るときはポニーテールだったのを今は下ろしていて、雰囲気が変わって見える。
「上島です。あの、ダンスすっごく格好良かったです」
「ダンス?いつのかな?」
「昨日、正門前でやってましたよね。それで」
「あぁ、そっか。ありがとう。今の時期はね、新歓のために毎日違う場所でやってるの。いつもは決まった場所でやるんだけどね。そっか〜、昨日見てくれたんだね」
なるほど。いつも正門からしか帰らないし、まだそんなに構内を見回ったこともなかったから見かけなかったのか。
嬉しそうに照れて笑う牧村さんはダンスをしているときのクールな印象とは全然違って、優しそうな可愛い女性だった。
「上島さんはなんで今日来てくれたの?」
「え?」
「いや、なんとなくだけど上島さん、大人しそうだから意外だなーって。ダンス、好き?」
「あー…えっと…」
なんて答えるのが正解なんだろう。鋭い質問に思わず詰まってしまった。
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