4
あたりを見回すも似たような建物ばかり。
式の時間は確実に迫っていて、焦りながらきょろきょろと首を動かしていると後ろから声をかけられたのだ。
振り返ると案外近くにいたようでふんわりと甘い香水の香りが鼻腔に広がった。
立っていたのはグレージュカラーの巻き髪をサイドに流して、くっきりとした目鼻立ちの良い綺麗な女性。アイラインのせいか元がそうなのか目力が強くて、第一印象は"怖そうなお姉さん"だった。
『ねえ、アナタも新入生?だよね?』
『え?あ、はい…』
『やっぱり!よかった〜私もなんだ。この大学広いから迷うよね。会場まで一緒行こ。何ちゃん?』
『えっと、上島…美梅です』
『みうめちゃん?なんか珍しい名前だね。どんな字書くの?』
『美しい梅って書いて美梅』
『へ〜。じゃ、うめちゃんだ。うめちゃんって呼んでいい?タメだよね。18?』
『はぁ…』
『やった。私、松本綾子。綾子って名前なんか古臭いから綾って呼んでよ』
矢継ぎ早な彼女の勢いに押されながら曖昧な返事で頷くと、彼女はえくぼを作った人懐こい笑みで返す。
ぐいぐいくるその性格はおそらく人を選ぶだろうが、彼女の場合は馴れ馴れしいよりも親しみやすさがあって好感が持てた。
今思えば、素直な綾ちゃんらしい。
その後は会場に着いてからも式が始めるまでそのままずっと一緒に喋っていて、すっかり意気投合したのだった。
正直、誰も知り合いがいなかったから綾ちゃんに話しかけられた時はすごくホッとした。
私はどちらかといえば、社交的ではないし面白い話もできないから相手から話しかけられた方が助かる。
要は聞き専なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます