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あたりを見回すも似たような建物ばかり。


式の時間は確実に迫っていて、焦りながらきょろきょろと首を動かしていると後ろから声をかけられたのだ。


振り返ると案外近くにいたようでふんわりと甘い香水の香りが鼻腔に広がった。


立っていたのはグレージュカラーの巻き髪をサイドに流して、くっきりとした目鼻立ちの良い綺麗な女性。アイラインのせいか元がそうなのか目力が強くて、第一印象は"怖そうなお姉さん"だった。




『ねえ、アナタも新入生?だよね?』


『え?あ、はい…』


『やっぱり!よかった〜私もなんだ。この大学広いから迷うよね。会場まで一緒行こ。何ちゃん?』


『えっと、上島…美梅です』


『みうめちゃん?なんか珍しい名前だね。どんな字書くの?』


『美しい梅って書いて美梅』


『へ〜。じゃ、うめちゃんだ。うめちゃんって呼んでいい?タメだよね。18?』


『はぁ…』


『やった。私、松本綾子。綾子って名前なんか古臭いから綾って呼んでよ』



矢継ぎ早な彼女の勢いに押されながら曖昧な返事で頷くと、彼女はえくぼを作った人懐こい笑みで返す。


ぐいぐいくるその性格はおそらく人を選ぶだろうが、彼女の場合は馴れ馴れしいよりも親しみやすさがあって好感が持てた。


今思えば、素直な綾ちゃんらしい。



その後は会場に着いてからも式が始めるまでそのままずっと一緒に喋っていて、すっかり意気投合したのだった。




正直、誰も知り合いがいなかったから綾ちゃんに話しかけられた時はすごくホッとした。


私はどちらかといえば、社交的ではないし面白い話もできないから相手から話しかけられた方が助かる。


要は聞き専なのだ。

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