第32話

「あ、あの‥」



そんな時、か細く少し震える声が聞こえた。



「ご、ご挨拶遅れました。みな、南百合です」



初めて会った時からお袋の勢いに負けてまともに話せてなかった百合。一生懸命さが伝わってくる自己紹介だった。



「うん、百合さんね。うちの息子をよろしくね」



そんな百合の言葉に耳を傾け接するお袋。



「あの‥これだけは今日伝えたかったんです」



「百合‥?」




透き通った声、もう震えなんてない真っ直ぐ淀みのない声だった。



「颯さんは‥私をこの広い世界から見つけ出してくれました。一人で生きていくのに必死で‥一人きりでは、私では見ることのできなかった世界を見せてくれます」




「そうか‥」




百合の目を見てしっかり頷く親父。



「何より、大切にされてる、愛されてるって‥実感できるんです。颯さんって何でこんなに愛を伝えてくれるんだろうってずっと思ってました。‥でも今分かったんです」




この部屋にいる全員が、百合から目を、耳を離せなかった。

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