第86話

みるみるうちに真っ赤になる颯の手。



私、私、ハァ、ハァ、ハァ…


息が苦しかった。


ーーーっ!!はや、はやて、



「はやてっ!!!」



「百合っ!大丈夫か?…かなりうなされてたぞ」



飛び起きた私の背中、隣で私の肩を抱き、暖かい大きな手が何度も摩ってくれていた。



「わ、わた…し…はや、はやっ、てのこと…」


「大丈夫だ、落ちつこう。なっ?」



状況が飲み込めないし働かない頭。颯の言うことにうんうんと頷いた。



「ゆり…」


「…ん、」


呼ばれた声に顔を上げれば、塞がれた唇と同時に注ぎ込まれた水。冷たいそれは体に流れていくのがやけに分かるほど。そして唇から伝わる颯の体温に酷く安心した。



「落ちついたか?」



口端から垂れた水を親指でグッと拭われれば、暗闇の中真っ直ぐ見つめる颯がいた。



「よし…見えてるな。映ってる」


「えっ?」


「いや、何でも無い」

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