第74話

窓は全開、身を半分乗りだしそこに腰掛けてる百合がいた。そして、手にはこのフロアのキッチンに置いてあった果物ナイフ。



「ゆり…」



百合まで5メートルの距離。名前を呼べばゆっくりゆっくりと振り返る百合。



「っ!!」



その瞬間、隣の透が息を飲むのが分かった。それもそのはず…。百合と出会ったときよりも深く、真っ暗な瞳をしていた。



「何も…うつしてねぇな」



それはもう何も映していない。



絶望だった。



前の俺ではきっと今の百合は救えなかった。


でも今は違うだろう?百合。



「ゆり…声は、声は聞こえるだろ?」

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