初体験

第3話

何か幸せな夢を見ていたようだが、目が覚めてしまった。


「おはよう、ぐっすりだったね」


ふと、声のする方に視線をやると眼鏡をかけている新田さんと目が合った。


昨日のことを思い出すと少し気まずい。


「何か飲む?お腹空いた?」


本を閉じて立ち上がる新田さんの姿を見て、私は不思議な体験をしていると強く感じた。


「演技ならもうそのキャラ辞めてもらっていいですよ?」


あの姿の新田さんを見たあとに爽やかさ全開の新田さんを見ると少々気味が悪い。


「ほんと?なら通常運転で行くね。爽やか新田、結構だるいんだよ?」


すぐに態度を変える新田さんに演技力があったのは正直驚いた。


人は見かけによらないという奴だ。


「コーヒーと菓子パンしかないけどいい?」


私の前に持ってきたそれらは私が見たことがないものだった。


「…美味しくない」


コーヒーという飲み物を口にしたがあまりおいしいとは言えなかった。


「砂糖入れてみる?」


何やら粉を入れて、再び私の前にコーヒーを持ってきた。


「薬物?」


「何でそうなる?砂糖だって言ったじゃん」


普段なら他人からもらった得体のしれないものを口にはしないが、この人は特別だった。


「昨日はありがとうございました。けど何で居場所がわかったんですか?」


あんなにタイミングよくあそこに現れるとはあまりにも出来過ぎた話だと感じていた。


「昨日、名刺あげたろ?他人からもらったもんには警戒心持たないとダメだぞー」


水にぬれてふやけている名刺をちらちらさせながら笑っている新田さんに少し腹が立った。


「ほら、ここに発信機付けといた!」


楽しそうに説明してくる新田さんはカブトムシを捕まえに行く小学生のような表情をしていた。


「発信機、居場所がわかるようになるんだ。すご」


始めて見たものに少し興奮していると新田さんは驚いた顔をしていた。


「君たちの方がこういうの使い慣れてるんじゃないの?犯罪でよく使う手口でしょ?」


「私が犯罪者だと?」


軽く謝ってくる新田さんに私はあの街について説明した。


「あの街は何も発展してません。だから何だろう…難しい」


どうやって言葉にして伝えればいいのか正直分からなかった。


この人たちがどこまで私達の実態をしているのか分からなかったがほとんどが噂話の妄想のはずだ。


「けど一つ言えるのは、生きるための手段として犯罪に手を染めてる。…だからきっと一生分かり合えないよ」


理解してほしいと思っていない。


助けて欲しいと思っているわけでも無い。


ただ私は生まれてきた時代を間違えただけだと自分に言い聞かせてきた。


「…俺、ヒーローになりたい」


「バカなこと言わないでください。絶対柄じゃないです」


問答無用で人を助けるのがヒーロー。


昨日の新田さんは一つの命を目の前で捨てた。


ヒーローは自分の命よりも庇護対象を守る、変な生き物だ。


つまり新田さんはヒーローからかけ離れた場所に位置付けられる。


「俺も子供じゃないしそれは分かってる。それでもせめて俺は家族を奪ったこの世界に復讐したい。国を守るなんてそんな大層なことは言えないけど、君となら面白いことが出来そうだ」


狂気に満ちた犯罪者の方が警察よりもぴったりだと思う。


「警察って柄じゃないけどそのためになったんだから。ねぇ俺と一緒に政府ぶっ潰そうよ」


手を差し出す新田さんはものすごく楽しそうだった。


「ここで頷くバカはいないでしょ」


「いーや、ヒナちゃんは俺と同じ大バカ野郎でしょ」


まさかこんな人とバディを組む人生があるなんて想像もしなかった。


「見たこともない世界を見せてあげる」


「中二病でも拗らせてんの?」


「よくそんな単語知ってるね」


私より年は上だが、精神年齢は下だ。


正直少し不安だ。


「ならまずは警察として普通の街の普通を教えるよ」


新田さんはクローゼットから何着か服を出して私に着るように命じた。


警察よりも凶悪犯として名をはせる方が有り得そうな顔をしている新田真との相棒生活が始まった。

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