義兄弟の話Ⅲ

第二王子殿下の婚約解消から数か月が経った。

「あ、義姉様ねえさま………」

「ご機嫌よう、オズワルド殿下」

「こんにちは………」

気まずそうに挨拶を返してくる。

まあ、それもそうか。

「それでは、また」

特に話すこともないだろう。

そう思って、彼の横をすり抜ける。が、

「あ、ま、待って………!」

「何か?」

慌てたように彼は私の手を掴む。

「その………」

その目があちらこちらへ泳ぐ。

「用があるのであれば、手短に願います」

「っ」

淡々と告げれば、オズワルド殿下はぐっと唇を噛み締める。

「彼女、は、もう、婚約されましたか………?」

一瞬考える。

言うべきか、言わないべきか。

「聞いてどうするのです?」

「っ、もう婚約しているなら、諦め、ます………でも、まだ、まだなら、僕はまだ―――――」

顔を歪めて、苦しそうに告げる。

「あなたはもう、フラれたんですよ?そうさせたのは貴方自身です。もう一度チャレンジするとして、何が悪かったのか、理解されています?」

「………妹ばかりを優先して、婚約者だった彼女を、蔑ろにした………」

もごもごと答えられて、ややイラっとする。

「蔑ろ、とは具体的に?」

にっこりと笑って問いかければ、屈辱からか羞恥からか、彼は顔を真っ赤にした。

「約束を守らず、彼女の誘いを無下にし、僕は一度も彼女と過ごす時間を取ろうとしませんでした。彼女の言葉も、行動も全部、無視しました………」

「それで?」

「えっ」

まあ、おおよそ合っているだろう。

私は彼女ではないので、まだあるかもしれないし、本質は違うかもしれないが。

「それで、その後は?口ではなんとでも言えます。特にあなたは王族ですから、より口は達者でしょう。公務もされているのですから、きちんと問題点について改善策を提示すべきです。その上で、彼女があなたを信用するかしないか、を決めるべきですわ」

「…………もう少し、考え、ます」

「そうですか。彼女、まだ婚約は決まっておりません。まあ、良いと思っている方はいらっしゃるようですよ?」

今はこのくらいだろう。

そう思って告げれば、彼は酷くショックを受けたようだが、これ以上私に絡んでくることはなかった。


* * *


それから数週間後、ライラ様は婚約が決まった。

元々、オズワルド殿下が学園でも彼女を蔑ろにし始めてから、ある程度決めていたらしい。

彼と共に歩む未来はない、と彼女はとっくに見切りをつけていた。

それでも、諦めきれなくて1年は彼のことを待ったのだろう。

結果、二人は結ばれなかった。

縁がなかった、ただそれだけの話だ。

また数日オズワルド殿下は呆然としていたが、今度は早めに持ち直した。

それなりに反省していたのだろう。あるいは、彼女に引導を渡してもらえたか。

「あ、義姉様」

「御機嫌よう、オズワルド殿下」

「良かった、すぐ見つかって」

挨拶もそこそこに、近付いてくる。

「何か?」

「あ、急にすみません。ただ、お礼が言いたかったというか、なんというか………」

「?」

もごもごと言われて、心当たりがなく、首を傾げる。

「彼女のこと、彼女の味方になってくださって、ありがとうございました。僕の至らなさを気付かせてくれたことにも感謝しております」

「………そうですか」

正直どうでも良かった。

ただ、両想いだったはずなのに、自分で将来の伴侶を選んだくせに、そのまま放置していたことに苛立った。

釣った魚にエサをやらない、というやつだ。

だから、彼女の味方をした。

決してオズワルド殿下のためではない。

「反省されているのであれば良いです。まあ、何もかも手遅れでしたが。ああ、それからあなたのためではありませんので、そこは勘違いされませんよう。まあ、謝意は受け取っておきますわ」

淡々とそう告げて、さっさとその場を後にする。

気配から彼が私の背へ向けて、深く頭を下げていることはわかった。

だが、簡単に許したいとは思わない。

まあ、それはあくまで私の感情で、それを今後に持ち込む気はない。

それに、許す許さないは私ではなく、彼女の権利だろう。

私は単純にムカつくから、というただそれだけだ。

自業自得。

折角自分で望んで結んだ縁だったのに、それを彼自身が断ち切ったのだ。

伯爵令嬢が幸せになれるのであれば、これ以上言うことはないだろう。

良くも悪くも、オズワルド殿下は国王陛下に似たのだろう。

対象が他の女ではなく、妹であったことは不幸中の幸いだろうか。

まあ、不幸であったことに変わりはない。

彼女はもうとっくに吹っ切れているようなので、特に問題はないだろうと思っている。

わざわざ報告しに登城したときは、幸せそうに笑っていて、とても安心した。

ちなみに、そのときオズワルド殿下は城外の視察に追いやられていたので、そのときは彼女に会ってすらいない。

万が一早めにオズワルド殿下が帰ってきたとしても、鉢合わせないように指揮系統を徹底させた。

まあ、向こうの騎士たちが優秀で、色々とうまく引き留めてくれていたので、それを使うまでではなかったが、良い訓練にはなっただろう。

それはさておき。

オズワルド殿下をだいぶ御することができたし、その結果オリビア殿下も大人しくなった。そうなると、オスカー殿下が少しだけ元気になる。

良い循環だ。

別にコントロールしようとかは考えていないけれど、ある程度こちらの、特にオーウェンの指示を聞けないのはよろしくない。

プライベートについて細かく口を出すつもりはないが、政治は信用問題。

それがだらしなさすぎても困る。

「そうか、オズが………」

「ええ、少しは反省できたようですわ」

「それなら良かった。まあ、しばらくは様子見か………」

それに頷いて、二人でソファに沈み込む。

「ひとまず一件落着か」

「ええ」

これからもきっとトラブルや面倒事は起こるだろう。

残念ながら、政治は腹の探り合い。

オーウェンの足を引っ張ろうとあの手この手を使って、自分が政治の中心に食い込もうとするだろう。

それらを許す気はないが、油断大敵だ。

だから、家族間で争っている暇はない。

幸い、他の兄妹たちはわざわざオーウェンと対立してまで、王になろうとは思っていないようだし、蟠りさえ解消すれば、団結して良い政治を行えるだろう。

「今日はもう休もうか」

「はい」

久しぶりにゆっくり眠れそうだと、そう思った。


* * *


それからしばらくして、兄弟同士でお茶会の開催が定期的に開かれるようになった。

兄妹間の交流として、意見・情報交換の場にもなっている。

相変わらず、オリビア殿下の我儘はあるが、行き過ぎたものを叱れば、それなりに反省するようにはなった。少しの間は不貞腐れているが、理解はしているようだ。

一方でオスカー殿下は我儘を言うようになった。ダメなものをダメ、とオリビア殿下と同様に叱れば、すぐに謝る。素直に聞き入れるので、時々心配になることもあるが、まあ問題はないだろう。

オズワルド殿下はむやみやたらにオリビア殿下を甘やかすことはやめた。そして、今までを取り戻すようにオスカー殿下と話すようになった。

二人が笑い合っているのを見て、少しだけ安堵する。

穏やかに日常が過ぎていくことに幸福を感じる。

オーウェン様と共に、この日常を過ごせることが何よりも幸せだ。

それから数か月後、オズワルド殿下は婚約が決まった。

オリビア殿下とオスカー殿下の婚約者を決めるためのお茶会と同日程で開催された。

城で働く人たちはめちゃくちゃ準備が大変だったと思う。

双子の兄妹に差が出ないように、と元々二人は同じ日程だった。

ただでさえ、オリビア殿下が優遇されすぎていたところがあったから、これ以上はとオーウェンが進言した結果だ。

しかし、そこへオズワルド殿下の婚約解消があったため、さすがに二人より遅いのは、と同じ日程になったのだ。

指定しても良かったのだが、残念ながら、そうまでして婚約する必要がやはりなかったので、未婚かつ誰とも婚約していない令嬢を集めることになったのだ。

平和な証拠ではあるが、準備する側は大変でしかないな。

肩を竦めて、風魔法で、会場をセッティングする。

「助かります、王太子妃殿下………」

「気にしないで。急遽決まったことだもの。全部は無理だけど、できることならやるわ」

「ありがとうございます!」

感激したように深く頭を下げられる。

私もあまりあれこれ手を出すと、恐縮される立場だから、気を付けないと。

「おおよその移動は終わりました。あとはお願いします」

「本当にありがとうございます!!あっちもこっちも人手不足で、助かりました!!」

改めて礼を言われて、それに手を振って応えつつ、その場を立ち去る。

「あんなに手伝って良いのか?」

「あら、根に持ってますわね」

彼らが見えなくなってすぐ、オーウェンが顔を出す。

ムスッとした様子で言われて、クスクスと笑ってそれに言い返す。

「忘れていないぞ、あれだけ怒られたことは」

「学生の頃の話でしょう?それに、私は前もって相談していましたわ」

「むぅ………」

「突然、何の声掛けもなく、王太子殿下が、手伝い始めたら、誰だって困りますわ」

「まあ、な………。それで、どれくらい根回ししたんだ?」

「ひとまず、簡単な作業や人手が必要なものについて打診して、注意事項を擦り合わせた結果、許可をもらいましたわ。もう少し手伝いたかったのですけれど、これ以上は彼らに迷惑がかかってしまいますわ」

そんな風に談笑しながら、次第に仕事の話へ変わっていく。

私たちは大体こんな感じだ。

私は苦痛に思わないが、オーウェンはどうだろう。

今夜にでも聞こうか、そんなことを頭の片隅に考える。

特に彼に対して不満もなく過ごしてきたが、私は良くても彼が良くないことはある。

そう考えていたが、その夜彼と話すことはできなかった。


* * *


「かなり時間がかかっていますね………」

「そうね」

あのあとすぐ、オーウェンは緊急の視察が入り、大急ぎで向かって行った。

ただ、そのあとを追いかけるように雨が降り続いていた。

そろそろ秋の雨期でもあったから、仕方ないと言えば仕方がないが、行き先となった領地に向かう道中は山があって、土砂崩れでも起きていたら足止めを食うだろう。

今のところ、私中心に回しているので、行政に問題はないが、いつまでもこのままではよろしくない。

両陛下は元々別の視察が入っており、すでに城を留守にしていた。そちらは予定通り進んでいるそうだが、絶対の決定権を持っている方たちがいないというのは、漠然とした不安を生んでいるようだ。

ひとまず、オーウェンは視察に出る直前に私に任せる、何かあればオズワルド殿下と相談するよう告げて行ったので、城で働く人たちは私の指示を良く聞いてくれている。

問題は、オズワルド殿下の動向だ。

どうにもきなくさい。

反省したかと思っていたのに残念だ。

まあ、裏に誰かいると考えるべきだろう。

故に、以前断罪パーティー対策用にやっていた記録水晶をぴったりつけている。

誰かに何かしら指示したときは、その人にも記録水晶をこっそりつけている。

これについては、後で謝罪をしなければならない。

さて、どう出るか。

その日はすぐだった。


* * *


「義姉様」

「あら、御機嫌よう、オズワルド殿下」

オーウェンより雨で足止めを食らっていることを伝言蝶で聞いた朝だった。

「義姉様―――いいえ、魔女よ!人々を騙す罪人を捕らえろ!!!」

衛兵たちがオズワルド殿下の指示で、私を捕らえる。

すでに予測していたことなので、特に抵抗はしない。

「魔女、ですか。何を根拠に?」

「ふん、その異常な魔力量は前から怪しいと思っていたのだ」

「そうですか」

はあ、と溜息を吐く。

「まさか、それだけで魔女だと決めつけたわけではないですよね?」

にっこりと微笑む。

「っ、そ、それはこのあと徹底して調べる。魔女の可能性がある以上、この対応は妥当でしょう?」

「そうでしょうか?両陛下も王太子殿下も不在の中で行うのは、悪手なのでは?あなたは王位継承権を持ちますが、絶対ではありません。それから、公務を放り出しているあなたに、完璧にできますか?」

挑発するように告げれば、彼は顔を真っ赤にした。

「連れて行け!!!地下牢に繋ぐんだ!!!」

衛兵たちを怒鳴りつけ、オズワルド殿下は肩を怒らせながら、私に背を向けて立ち去っていく。

チョロいな、と思いながら、私は大人しく衛兵に従う。

「ところで、魔女だと言われているのに、魔力を封じる首輪はつけなくて良いのですか?」

「………指示されていませんので」

オズワルド殿下の指示を聞いて素早く動いていたので、完全に彼の方についているのかと思ったが、そんなことはなかったようだ。

それにしても、オズワルド殿下は詰めが甘い、甘すぎる。

魔女の研究に関心がないから故だろう。

そうでなければ、魔女を抑えるために用いている首輪の魔道具を私に使うはずだ。

加えて、衛兵たちが誰も彼の言うことを聞いていない。聞いているように見せかけて、言われたことしかやらないという徹底ぶり。

故に、彼らは私を地下牢に繋いでも、魔法を封じることも、身体検査もしない。

もちろん、彼がやれと言えばやるかもしれないが、見えないところではやらないかもしれない。

「貴女様が、魔女でないことも、オズワルド殿下が放棄した公務をやっていたことも、きちんと知っています。両陛下が、王太子殿下が戻られれば、きっとすぐ解放されます」

「そうね。ただ、こんなくだらない事柄のせいで、公務が滞るのは良くないわ。サム様に伝言を、私の元に書類を運んでくるように伝えて。彼ならうまくやれるわ」

サム様は今回残って、私の補佐として動いていた。

今頃、期限の〆切順に書類を並べて、準備をしているだろう。

「では、ペンなどもすぐに―――――」

「不要ですわ。どうとでもできますから、必要なのは書類だけです」

あれこれ気遣ってくれるのは有難いが、すでに準備済みだ。

そうこうしている内に地下牢に着く。

「しばらくこちらでご辛抱ください」

「それから、オズワルド殿下より、ブレスレットを取り上げるようにと言われておりますが………」

「構いません。どうぞ?」

おずおずといった様子で言われて、あっさり手を差し出す。

少しほっとしたように衛兵はブレスレットを外す。

ブレスレットは私の魔力を抑えるためのもの。

暴走を防止するために予防線でつけているだけだ。

「では、お預かりします」

「ええ」

硬くボロボロのベッドに腰を下ろし、私は錠が閉まる様子を笑顔で見届けた。

両陛下が戻られるまであと数日。

もしかすると、オーウェンが真っ先に飛んでくるかもしれない。もうすでに伝言蝶は飛ばしてあるから。

ちなみに、私につけられている手枷は魔道具の一つで、魔法を封じるもの。

魔女のために魔力を吸い取って、理性を取り戻させるのとは違い、ただ魔法を使えないようにするもの。

が、それは自分より魔力が上の者に限る。

現在、サンライト王国には私より魔力のある者はいない。

つまり、誰がつけても私にはこの手枷は意味がない。ただ、手の動きを制限する程度。

(まさか、この程度の知識もないなんて)

私が魔女用に作った首輪とは性能が違いすぎる。

(そもそもなんで嵌める人の魔力が嵌められる人の魔力より上回っていないといけないのかしら)

その仕組みが正直謎すぎる。

まあ、そのうち改正しよう。

宮廷魔導士は魔力量が多い人が多いので、今まで困ったことはないが、いずれその仕組みのせいで犯罪者を逃がしてしまうこともあるだろう。

あとでその辺りの資料を確認しよう。

そう色々思考している内に、サム様がいつの間にか書類を届けてくれた。

彼は暗殺稼業の家系だ。表立って動いているわけではないが、彼はその中でも優秀な部類に入る。ただ、ヒロインによる魅了の魔石を使用されて、今はオーウェンの側近として罪滅ぼし中だ。あまり暗殺稼業のことを大っぴらには言えないので、彼はSクラスだったこともあり、ただオーウェンの側近に登用された、という体で通している。

「さて、呼ばれるまでは仕事しましょう」

さっさと書類に目を通す。

それを壁側に避けておけば、いつの間にか消えている。

結構長い時間オーウェンの傍でそういった仕事はせずにいたが、腕は落ちていないようだ。

『リア!!!!』

暗くなってさすがに寝ようかと硬いベッドに横たえたところ、耳鳴りがするほどの大声で呼ばれた。

とはいえ、それは感覚の話で、実際に私の鼓膜を揺らしたわけではない。

『落ち着いてくださいな、オーウェン』

宥めるように通信魔法に応える。

『す、すまない………』

『もう、伝言蝶を飛ばしておいたでしょう?』

『妻を心配するくらい許してくれ』

『ふふ、そうですわね』

通信魔法が届いたと言うことは、オーウェンは王都についたのだろう。

彼の魔力量からそのくらいが妥当だろう。

『ひとまず無事なようで良かった』

『オーウェンも。雨は大丈夫ですか?』

『ああ、問題ない』

オーウェンの話によると、私が捕らえられたと知って、すぐに戻ったらしい。

その道中大雨で視界は酷かったそうだが、風魔法でなんとかなったようだ。

土砂崩れにも巻き込まれず、すぐに山道を抜けてきたらしい。

ただ、そのあとに土砂崩れが起きたらしく、どうせなら、と土砂崩れに足止めを食らっていることにしているらしい。

その伝言蝶はオズワルド殿下に届けたとのことなので、きっと素直な彼はそれを信じるだろう。

両陛下の方は本当に土砂崩れによって立ち往生しているらしいので、もう少し時間がかかるだろう、とのこと。

『リア、君なら大丈夫だと思うが、気を付けてくれよ』

『はい』

そこで通信魔法を切る。

食事は私をここに連れてきた衛兵を筆頭に、いつも通りのものを運んできたし、ベッドは硬いから、と毛布をたくさん持ってきてくれた。

一晩くらい平気なのになあと思いつつ、有難く受け取った。

やはりしっかり食べて、眠って、体力を確保するのは大事なことだ。


* * *


翌朝、目を覚まして、伸びをする。

いつも通りの朝食が運ばれてきて、食べ終わると食後のお茶が出る。

(いつもと変わらなすぎでは?)

場所が変わっただけで、いつものこととあまり変わりがない。

まあ、それはともかく。

昼頃になって、ようやく呼ばれた。

(おっそ………こちらからある程度整えたとはいえ、ここまで思い通りになるというか、昼まで放置って………)

そもそも、魔女だと断じて捕まえたのに、即処刑としないのもおかしな話だし、対策も甘すぎる。

せめて魔女を捕えるために使用している首輪くらいつけろ。

はあ、と溜息を吐いて、大人しく先導に従う。

たどり着いたのは玉座のある間。

扉が開いて最初に目に入ったのは、堂々と玉座に座るオズワルド殿下。

はああ、とまた深いため息が漏れる。

「毒婦め」

オズワルド殿下が睨み、そう零すのと同時に、私は風魔法で彼を玉座から引きずり落とす。

「なっ………?!」

「まず、私が魔女かどうか話す前に、あなたにそこを座る権利も義務もありません」

「貴様………!!!」

オズワルド殿下はすぐさま立ち上がるが、もう玉座には座れない。

「では次に、授業のおさらいでもしましょう。この手枷の魔道具は、拘束する相手より高い魔力を持つ者から拘束しなければなりません。そうでなければ、ただ手の不自由を奪うだけ。故に、私は今簡単に魔法を使えました。これは魔女も人間も関係ありません。まあ、魔女を捕えることは人間の作った魔道具では現時点で無理ですけどね」

彼の様子など無視してにっこりと微笑んで、私は手枷を壊さずに外す。

壊した方が楽だが、証拠にもなるので、風魔法で鍵穴をいじって開けたのだ。

まあ、私にはこのくらい余裕だし。

「さて、次に魔女についてですが、魔女の疑いがあると言って、何故すぐに天罰の鎖を使わないのです?魔女を拘束するなら、その魔法を使うべきです。そして、私が開発した魔道具を使用するのが吉ですわね。まあ、さっさと処刑しても良いのですけれど?」

「…………っ」

処刑、という言葉にあからさまに動揺するオズワルド殿下。

まあ、そこまでする気はなかったのだろう。

「それに、あなたは魔女を保護して人間に戻すことには反対だったのでは?」

「っ、だまれ………」

「何をしたいのか、さっぱりわかりません。それで、私が魔女だという証拠は出ました?」

「そんなの!!今手錠を外したことから―――――!!」

「王立魔法学園首席、加えて歴代で最強と言われていたんですよ?それだけで、他の人が私を魔女だと言って、納得できるとでも?」

「う、煩い煩い!!!なら、あの魔道具はなんだと言うんだ!!!あんたは肌身離さず魔道具を身に着けていた!!!それで魔女であることを隠していたんだろう!!!」

子供のように喚くオズワルド殿下を冷ややかに見降ろす。

「それなら一晩経って、とっくに私の姿は変わっているはずですわ」

「魔女なら姿形を変えることくらい!!!」

「では、証明してください」

「…………っ」

すぐに彼は言葉に詰まった。

「私が魔女であることを、誰の目にも明らかであるように証明してください」

私は余裕たっぷりに問いかけた。

「っ、それは…………っ」

「ああ、それと魔道具の件ですが、もう結果は出ているのでは?」

私がそう告げると、横から魔道具を研究・開発している研究員たちが私のブレスレットを、クッションの上に置いた状態で持ってやってきた。

「こちらは、魔力を抑える魔道具です」

「は………?」

「しかも、個人―――こちらは王太子妃殿下に合わせて作られておりますので、妃殿下以外がつけると完全に魔力が使えなくなるでしょうけれど。とはいえ、他の方がつけても害はありません。単純に魔力を抑えるだけです」

「馬鹿な………」

「言っておきますけれど、その魔道具は私の膨大過ぎる魔力量が暴走しないように、と私自身が周囲に気を遣って作ったものです。そして、彼が言ったように、それでは魔女である証明には成り得ません」

唖然とするオズワルド殿下を鼻で笑う。

「随分お粗末ですわね。私を陥れたかった?それとも何か叶えたいことでも?」

鋭くオズワルド殿下を見据えると、彼は俯いて拳を握ったまま黙り込んでしまう。

「そこまでだ」

堂々とした声が聞こえて、オズワルド殿下以外の全員が頭を垂れる。

「リア、頭を上げてほしい」

国王陛下の言葉に甘えて、私は顔をあげてニッコリと微笑む。

「愚息がすまなかった………」

「いいえ、陛下。もう少し別の手立てがあったのでは、と思っております。こうなる前に、何かできたのでは、と……」

「君が気に病む必要はない。ここまで甘やかした、我々親の責任だ」

哀しそうに言って、国王陛下はオズワルド殿下を見据えた。

「王太子であり、兄であるオーウェンの妻に、魔女などという侮辱、証拠もなく捕らえるとは、お前は何を考えていたのだ?」

その声音に含まれた悲哀に、オズワルド殿下はたじろいだ。

「拘束しろ」

しかし、次に発せられたのは冷たく、威厳ある声だ。

すぐさま衛兵たちは動き、オズワルド殿下を拘束し、床に抑えつけた。

「っ、何故、何故ですか父様!!!」

「愚か者。魔女ではない者に対する侮辱。王族として赦されることではない。王族でなくとも、人としてやってはならぬことだと、そんなことさえわからぬのか」

「っ、それは、でも―――――」

「それに、魔女の疑いがあるからとすぐ投獄、処刑するなど、暴君もいいところだ。王族がそう軽々しく罰を与えるんじゃない」

諭すように、懇願するように、告げられて、オズワルド殿下は項垂れるしかない。

「どうしてだ、オズワルド。お前は、お前はもっと賢かったはずだ」

「…………」

答えはない。

陛下はため息を吐いて、衛兵に合図を送る。そして、オズワルド殿下は両脇を抱えられて、引きずられるように連れて行かれた。

「リア」

きっとずっといただろうオーウェンが私の肩を抱く。

「愚弟がすまなかった。怪我はないだろうか」

「みんなが良くしてくれましたわ。何も、問題ありません」

「そうか」

私たちは身を寄せ合って、義弟だった彼が去っていく様を見送った。

あとから聞いたら、取り急ぎ緊急事態だから、とオーウェンが国王陛下の元に向かい、急いで連れてきたらしい。風魔法を使い、おぶってあの速さはすごいことだ。

それから、オズワルド殿下は―――オズワルドは王位継承権を剥奪、王子であることさえ許されず、学園に通うため辛うじて貴族の位だけは残った。

でも、それだけだ。

領地もない、大した権利もない、名ばかりの貴族。

そんなもの、最早平民とも変わらない。

恋とはそれほど人を狂わせるのか、と問われたら、私はそうだと答える。

誰もが成り得る現実で、叶えば幸福な夢となるが、叶わなければどうしようもない悪夢だ。

彼の動機は、ただ単にライラ様ともう一度、と思ったから。

無理だと諦めたように、反省したように見せて、その実諦めきれず、自分は悪くないと考えて、突っ走ったのだろう。

唆されたせいでもあるだろう。

ちなみに唆した阿呆は、牢にぶち込まれている。ソイツは今、余罪を調べているところだ。

オズワルドは早々に追い出された。今は学生で寮があるから問題ないだろうとのことだ。もちろん監視はついているが。卒業後は、何も功績を残せなければ、国境付近に屋敷を与えられてはいるので、そこで細々と暮らすことになるだろう。

波乱万丈な感じがしないでもないが、なんだかんだでオーウェンと共に対処できているし、彼が私を信じてくれるから、私も信じることができている。

今回はかなりお粗末な陰謀論だったが、今後もこういうことは起こるだろう。

きっともっと狡猾で、秀逸で、恐ろしいものだろう。

まあ、平和ボケしているから、どこまでなのか、元々平和な世界しか知らない私にも想像もつかないけれど。

「リア」

甘い声が私を呼んで、抱き寄せる。

「愛している」

「私も愛しているわ」

たぶん私は悪役令嬢だった。

でも、関係ないわ。

愛した人とこの先を一緒に生きられれば、きっとなんだって乗り越えられるから。

100年先も彼と共に。

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たぶん私は悪役令嬢~シナリオは知らないので、恋はご自分で頑張ってください~ 紅空 紅玉 @benisora

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