第44話
Ⅱ【旅 2】〔彼方へ〕p44
その飛行物体には、『気』が充満していた。
というより物体自体が魂で出来ている、或いは魂そのものであると言っても過言では無いだろう。
完成したそれを作動する時、ヘルラムは操作する感覚では無く、自分の意思によって自分の身体の一部を動かす感覚だった。
何の記録が残されていたわけでも無い。
ただその中に居て、胎児のような安心感に包まれていると、自然に飛行物体の大まかな歴史や目的、存在理由などが元々ヘルラムが知っていたかのように、ジワジワと心の底から湧き出てくる。
まるでテレパシーのように、物体との直接的なコミュニケーションをしているようだった。
今ヘルラムは、地球の有る銀河系の隣、地球からの距離250万光年のM31『アンドロメダ銀河』に向かっている。
ヘルラムは出発の合図を思念として送るだけでよかった。
あとは未知の飛行物体が勝手に目的地へ運んでくれる。
方向をセットする時も同じだった。
パワーONの時だけ半球に手をかざさなければならなかったが、それは人認証が必要だからだ。
既にヘルラムを乗員として登録してある。
もうすぐワープに入る。
可也の距離なので、1~3回まで回数が選べるようになっていた。
回数が少ない程乗員にかかる負荷が大きいので、何もかも初体験のヘルラムは3回のワープを選択した。
目の前の半球が鮮やかなデジタル表示に変わり、ワープまでのカウントを始めた。
超高速のために、描いたような白い直線で止めどなく流れていた星々の光が、徐々に光の束の密度を増していき、切れ目が無くなって虹色の平面となった。
振動は殆ど無く、重力制御などの対策も完璧だとみえて、ヘルラムへの影響は全く感じられなかった。
ヘルラムはただリラックスして、映画の画面を観ているように前面いっぱいの窓スクリーンを楽しんでいればよかった。
一瞬のうちに最初のワープが終わった。
アンドロメダの壮大で美しい渦巻きがはっきりと見える。
後ろには我が銀河系がやはり渦を造って大きく迫っていた。
銀河系を出た位置らしい。
次のワープまで少し時間があった。
ヘルラムは感動に打ち震えながら、想像を超える宇宙の壮大さと神秘を堪能した。
アンドロメダや我が銀河系と同じような大小様々な星雲があちこちに散らばっている。
向かっている星ロピの分身のようなこの飛行物体を、ヘルラムはジュニアと呼んだ。
ジュニアは飛行中も盛んに語りかけてきた。
ジュニアが、ヘルラムをロピへ連れて行くために昔地球へ送られた無人船であること。
それには理由があること。
ヘルラムにはその理由のために果たすべき重要な任務があること。
理由についてはロピに着いてから知らされること。
等々は飛び立つ前既に教わっていた。
ジュニアが語りかけてくる言葉は詩的で、しかも論理的だった。
2回目のワープに入る前のひととき、ジュニアは速度を落として宇宙空間を流れながら宇宙の神秘を歌ように語ってくれた。
旅立つ前に聞いていた自分の宿命を思うと、限り無い孤独がヘルラムを包み、宇宙に抱かれながら号泣した。
セカンドワープのカウントが始まった。
星々がストライプ状になり、トンネルを造り、そして平面となって消えた。
眩いばかりの光に満たされた。
落ち着いてくると、星雲の河が帯状に迫っていることが分かった。
アンドロメダのすぐ手前まで来ている。
今度はすぐ次のワープ体制に移った。
カウントに入るとヘルラムは目を瞑ってその時を待った。
静かに目を開けると前面に灰色の球が見え、それに向かって少しづつ接近していることが分かった。
ロピだ!
想像していたより暗く小さな星だった。
星と言うより飛行物体と言った方がいい風情だ。
近づくにつれ、不思議な模様が見え始めた。
クレーターだろうか………
正確な三角形が四つ。
そう…星形の一部を切り取ったような形の模様。
ヘルラムの左胸に有る星形アザの三角形を拡大して加えれば星形になる。
ジュニアは、もう役目を果たしたというように静止していた。
ロピの引力に乗って落ちていくつもりなのだろうか?
いや、そうでは無かった。
ロピがジュニアを導き、着陸すべき場所へ
不思議な模様も、よりはっきりとしてきた。
ジュニアはその模様を目指して静かに静かに降りてゆく。
そして遂に音も無く着陸した。
丁度模様が星形になる位置に。
そう……ジュニア自体がヘルラムやロピの持つ模様と同じ二等辺三角形をしていたのだ。
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