Ⅱ【旅 2】〔彼方へ〕

第43話

Ⅱ【旅 2】〔彼方へ〕p43


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いよいよ出発だ。


ヘルラムは、目の前にあるグレーの半球を両手で扇いだ。


半球はマーブリングした絵の具のように色付いて輝いた。

同時にヘルラムの体重が追いつけない速度で機体が直線的にフワリと上昇した。


そして一旦停止すると、セットどおりの方向へグルリと向きを変え、いきなりそちらへ向かって飛んだ。


目指すはアンドロメダ銀河の端に有る小さな星ロピ。 速度は既に光速に近い。



ヘルラムは人間として地球で生まれ地球で育ち、何の問題も無くそれなりの幸福感も得て今まで20年間生きてきた。


しかし常に何か潜在的な違和感を抱き続けてきた年月でもあった。


何処からとも無く聞こえてくる呼び声に囚われていたと言ってもいいかもしれない。


地球の大地を踏みしめていても、それはただ単に足が土に接触しているというだけの感覚でしか無く、いつも心は伴っていなかった。


常時身体と心が僅かにズレている状態で、生きている実感が湧かなかった。


元々天才的な頭脳を持ったヘルラムは、幼い頃から飛び級飛び級を繰り返し、20歳にして幾つもの博士号を持ち、天文学や物理学等を含めた総合科学の分野で活動していた。


そんなある日、不思議な現象が頻繁に起こるという噂のある土地の洞窟で見つけたのがこの飛行物体だった。


飛行物体は、宇宙科学研究所が有る乾燥地帯の荒涼とした岩場に、ひっそりと隠すように打ち捨てられていた。


ヘルラムは、研究に行き詰まりや疲れを感じた時よく一人でその岩場に出掛け、壮大な夕日や雲の流れ、無数の星々からインスピレーションを得ていたのだが、その飛行物体を見つけたのはそんな日々を何度も繰り返した後だった。


単にヘルラムがこの辺りをさ迷う時は考え事に集中していることが殆どだから見つけられなかったのか、見つけた寸前に飛行物体がその場に来たのか全く解らない。


そこに洞窟が有ること自体これまで気づかなかったし、確かにその後何度かそこを訪れたが、暫くは意識的に探さなければ見つからない程込み入った岩の構造をしており、隠されたようにひっそりとしていた。


ヘルラムは一目でそれが飛行物体であることが分かった。


ヘルラム自身がその頃、時空間制御可能な飛行物体開発を研究しており、その理想的な飛行を実現させるために最も必要なルールを完璧に充たした形態と材質だったからだ。


ただ材質に関しては、どうしても地球上の物質だけでは作り出せない合金で、時空間制御可能な飛行物体を生み出すに当たってはそこがまた人類が行き詰まりを感じていた部分でもあったため、ヘルラムはその合金を見た瞬間歓喜した。


そして、それから何度も何度も通い詰め、終いにはそこに寝泊まりして研究しているうち、その合金が100%理に叶った代物であり、飛行物体自体未知の高度な文明を持つ存在を証明するものであることが分かってきた。



ヘルラムは半年の間誰にも知られず一人でその飛行物体の修理と研究に没頭した。


そうしているうちに天才的なヘルラムの頭脳は多大な未知の知識を学び吸収した。


殆どの修理が済み、操作技術も習得し終わる頃には、この飛行物体の目的や謎も分かるようになってきた。

それはとても不思議な現象、そして体験だった。

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