第42話

Ⅱ【旅】〔輪廻〕p42


ハトラ達の人類が生きてきた年数は可也短かったようだが、最初からヤミの種族の支えを受けており、高度な文明と博愛に充ちた穏やかな時期だったようだ。


その人類が誕生する前にも氷河期が訪れていて、それ以前にはやはり人類が存在し高度な文明を築いていた。


しかし、それは地球生命が自然淘汰した人類では無かった。

言わば、地球に適した人間始め諸々の『生物』という『入れ物』を借りた異星人達の世界だった。


この時代に、私の魂が自分の足で地球上に生きた実感は全く無かったが、他の人間擬きの魂に入った時、星形アザを持つ者を見たことはある。


その人間擬きはピンという名の少年だった。


ピンはある時いつもの散歩道を歩いていて、遠くに蜃気楼を見つけた。


それが蜃気楼であることは承知していたが、面白半分に蜃気楼目指して進んで行った。


ところが近づくにつれ、建物の周囲にウラウラとした弱いエネルギースクリーンが張り巡らされ、銀色の金属でできたドームのような物だと分かった。 宇宙船のようにも思えた。

中はシーンと静まりかえっていた。


建物の周りを一周してみようと、湾曲した壁に沿って歩いて行くと、途中に入り口らしき暗い穴を見つけた。


ピンはすぐその穴に入ってみた。

途端パッと明るくなり、振り返ると逆に今まで居た外が真っ暗で何も見えなくなっていた。


ピンが立っている場所は長い廊下で、両側には重厚な扉が一列に並んでいた。


途中に開いている扉が有った。

覗いてみるとそこは広い倉庫兼研究室のような部屋で、壁沿いに並べられた無数の縦30㎝程の透明な円柱を前に、何やら作業をしている人物が居た。


目を凝らしてよく見ると、陳列されている円柱の中には人間の胎児と思われる白い物体が入っており、それぞれが生命を感じさせる僅かな動きをしている。


後ろ向きの作業員は、円柱一つ一つの上部から、細い管のようなもので液体を注入していた。


作業員がちょっと居なくなった隙に、ピンは一番近くに有った円柱を持ってみた。


その瞬間、円柱と円柱が置いてあった台との間に異様な虹色の光が発生し、警報音と思われる聞き慣れない無気味な音が鳴り響いた。


ピンは慌てて円柱を抱き締めると、一目散で外へ飛び出し、元来た道をまっしぐらに走った。


暫く走ると、急に異質な空気に支配され、スポッと抜けるような感覚に襲われた。


振り替えると、蜃気楼のようなあの建物は気配さえ無く消えていた。


ピンが盗んできた胎児の左胸には、体の割合に大きな星形のアザが有った。


ピンは胎児を自分で育てようと秘密の場所に隠して、植物の栄養剤などを入れたり日光に当てたり色々と世話をしたけれど、あの建物の中で円柱を手に取った瞬間から動きを失っていた胎児は、どんどん生命を感じない物体に変わっていき、そのうちミイラとなり、終いには綿屑のような白い靄に被われ消えてしまった。


ピンは使い飽きた玩具と一緒に円柱も捨てた。


消えた胎児の魂とDNAは、誰に気づかれることも無く透明球となって彼方へ飛んで行った。



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