第38話

Ⅱ【旅】〔輪廻〕p38


気がつくとタミーは、狩りをしていた森の中に立っていた。


タミーは15歳だったけれど、その後は星の運行を利用して生活を工夫し、様々な発明もした。


人間としての文明を向上させる為に必要な知識、それがトゥーがくれたプレゼントだった。

帰りのワープと同時に授かったらしい。


その総てを駆使して殆ど3世紀分くらいの文明を一気に発展させることに貢献し、当時としては長寿の70年という充実した人生を全うした。



トゥーは、地球と透明球との橋渡しである管を回収して、自分が乗ってきた小型透明球を乗せたまま大きい方の透明球で母船に帰った。


母船は大小様々な透明球が葡萄の房状に合体したもので、織姫や牽牛が乗っていたものが一番小型、トゥーが使っていたものが次に小さめ、地球と繋がっていたものがやや大きめ、そしてそれ以上大きい直径2㎞~数㎞の透明球がランダムに結合している。


母船全体の姿は目を見張る荘厳さで、普段は暗闇に溶け込み周りの風景に馴染んでいるが、いざ母船自体が動こうとする時に見せる全体の姿は、見慣れているトゥーでさえ、その都度感嘆の吐息を漏らす程美しく壮大だった。


合体する際の結合部分は自由に選べるので、その度に形態が変わることも毎回新たな感動を呼び起こす一因であった。

中には最初から全体の形を考えて結合し、そこに創造性を見出だす者もあった。


トゥーは、一番近い直径3㎞程の球に結合し、小さい球で貯蔵庫のある一番大きな球へ向かった。


大きな球のアクセサリーのように小型球を付け、ワープで直接貯蔵庫へ入った。


直径5㎝程の透明球が整然と並ぶその空間は、貯蔵庫と言うよりコンピューターの精神回路、そしてその回路の見本となった人間の精神を成すミクロ構造に似ていた。


貯蔵されているのも、人間のDNAと魂。


この貯蔵庫は大きな大きな人間とも言える。


中央にある幅5m程の通路を挟んで並ぶDNAの球は様々な淡い色がクリームのように混沌としている。


魂の球は、底知れぬ黒の中にミクロな星、ミクロな太陽系、ミクロな銀河が実際のマクロな宇宙と全く同じように点在し、5㎝球の中で小さな小さな宇宙を造っている。

そのミクロな地球にもミクロな人類が存在しているのだろうか………?


そしてミニ宇宙は数字で表せない程の数この貯蔵庫の中に有る。

7次元の棚を持つこの貯蔵庫には、いったいどれだけのDNAと魂が置かれているのか、トゥーでさえ見当もつかなかった。


ただトゥーは、代々続いてきた貯蔵庫の管理を親から受け継ぎ、地球を担当して誠実に言い伝えを守り、もうすぐこの仕事を終えようとしている。


トゥーはコピーと同時に保管されていた貯蔵庫の中でも一番新しいタミーのDNAを取り出し、ちょっとした操作で男性から女性に変えた。


白い肌と金の髪、そして美しいブルーの瞳はしっかりと残した。


あとはタミーの魂が開放されるのを待つ。


この母船の空間は時間をコントロール出来るので、タミーがその充実した人生を全うするまでの地球年55年は、トゥーが準備を整え終わる頃までには既に経過しており、タミーの魂もすぐトゥーによって回収された。


トゥーはタミーの魂である小宇宙を優しく撫で


「地球で会う日を楽しみにしてるよ」


と呟いて、タミーのDNAである球に重ねた。


二つはすんなりと馴染み、一つの球になって小さいが強い稲妻を発生させ、激しい混沌の後静かな小宇宙となった。


トゥーはその球が 、地球年13000年後東の土地に落ち、その中で地球に順応しながら地球年齢1歳弱まで成長して外へ出るようセットした。


それからトゥー自身も 空間移動装置に横たわり、タミーが地球に落ちる13000年後の5年前、タミーと出会うに相応しい関わりを持つ者に孕まれるようセットしてから、穏やかな表情で自分の生命維持装置をOFFにした。


トゥーのパール光は静かに消えてゆき、その左胸の黒い星形アザがくっきりと浮き出た。


偶然では無く必然で、しかも本人達自ら求め合うプロセスを前提に出会わせる為には、こうするしか無かった。


トゥーの遺体は音も無く柔らかい光を放ち、形を失いながら魂とDNAだけの存在になって、透明なエネルギー体の球に包まれた。

その直径5㎝の小さな球の中心にはブラックホールが有った。


そしてトゥーは平安時代の日本に貴族の三男として生まれ、影千代と名づけられたのだ。


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