第30話

Ⅱ【旅】〔輪廻〕p30


また強制的な他人の人生の旅が始まった。

世界中の人々の哀しい魂を重複する旅。


その間当然無数の戦争を経験した。


遡るほどに数多く野蛮になってくる。


でも、どの戦争が一番酷いなどとは言えない。


いつの時代も戦争は地獄以外の何ものでも無く、個人から成る筈の国家が実体の無い幻影として存在し、どれ程限り無い犠牲を個人に強いてきたかを思い知らされた。


そして、歴史の教科書には乗っていない人物の中に、世の中を動かしたどれ程多くの存在があったか、その偉大さと計り知れないエネルギーの大きさを知った。



次の私自身の魂は、西暦1300年代、スコットランドのスカイ島で見つけた。


                         

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                     ・・・・・今日も収穫ゼロ。

なかなか気に入った人間には出会えないわね。


人間を妖精国に誘い込み、その魂を抜いてコレクションするのが私の仕事。


魂の壺はもう何万個溜まったのかしら…………


昔は人間と見れば何でもかんでもコレクションしたけど、この頃は選りすぐりだけを集めるようにしている。


人間の世界で百年が私の世界での一年だけど、人間の男と本気の恋をしてはいけないという戒律を守って、もう一人の私自身に出会わない限り、私はミッピーという名で永遠に生きられる。


私は私、もう一人のミッピーなんて居る筈が無い。

この心臓の印のような星形アザは唯一私だという何よりの証しよ。


それに妖精王オベロン様よりステキな男なんて居るわけが無い。

まして人間の男になんか。


小花達の蜜を塗って羽の手入れをしなくちゃ!

それが済んだら人間界の夕陽を楽しみに行きましょ! ・・・・・


蜜のお陰でミッピーの羽は生き返り、虹色に輝き出した。


蜜は羽から体の中にまで染み渡り、ミッピー全体がほんのりとした光の玉に戻った。


ミッピーは次元のバリアを抜けて人間界へと移動し、一番良く夕陽が見える丘の上へ飛んで行った。


ついさっきまで、雨こそ降らなかったものの幻想的に曇って濃い霧に覆われていた地平線も、西には太陽の余韻をはっきりと残し、オレンジ、レッド、ピンク、濃淡を分けたブルーのグラデーションを造っていた。


「相変わらず気紛れなお空だこと…………」


呟きながらふと太陽の正面を見ると、派手な空をバックに人間の横顔の黒いシルエットが浮かんでいた。


それは明らかに若い男性のもので、思わず溜め息をついてしまう程美しかった。


ミッピーは暫く見惚れていたけれど、その顔が横向きになったり正面向きになったりを繰り返しており、その下で細長い棒状の物が動いていることに気づいて、ハタと目を凝らした。


若者は絵を描いていたのだ。

しかも夕陽を。


ミッピーは若者の後ろまで飛んで行って、背中越しに絵を覗いてみた。


黒いシルエットになりながらも生き生きとした生命感を感じさせる山や森、その後ろで華々しく閉じようとしている夕陽…………

見事な美しい絵だった。


ミッピーは感嘆の吐息をもらしながら、逆光を浴びていた若者の反対側に移動し、しげしげと若者を見た。


そして暫く呆然と見つめ続けていた。

それはそれは美しい青年だったのだ。


若者は筆を動かすのをやめ、立ち上がって少し後退りすると、自分の絵を眺め、フーッと溜め息を一つついて道具をしまい始めた。


既に、太陽の余韻で僅かに見えるものが残っているくらいの明るさになってきている。


若者が帰り支度を始めたことで、ミッピーは我に返った。


「いい獲物が見つかったわ!」


ミッピーはこの若者を誘惑し、魂を頂戴することにした。


ただ、出来上がった絵を見たかったので、絵が仕上がるまではチョッカイを出さずに待とうと決めた。


若者が帰り支度を終える頃には、すっかり暗くなっていたので、ミッピーは目立たないようにひっそりと見送った。


                     次の日ミッピーは朝早くから例の丘周辺をウロウロと飛び回っていた。


わけの分からないウキウキ感に満たされながら若者が来るのを待った。


人間界の時間をこんなに長く感じたのは生まれて初めてのことだった。


夕陽を描いているのに朝から来る筈が無いことは分かっていたけれど、どうしようもなかった。


羽には念入りに蜜を塗って、パール色のフワフワ波打った髪は花粉で飾り、得たいの知れない自分の心に困惑していた。


若者が暗闇の中に消えて行った方向へ飛んで行ったりもした。


待ち疲れてぐったりし始めた頃、遠くに若者が大荷物を担いでやって来る姿を見つけた。

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