第27話

Ⅱ【旅】〔輪廻〕p27


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空間がクルクル回る感覚の余韻が、魂だけになった私をまだ支配している。


・・・・・ローザ…ごめんね…………

帰宅した後のショックを考えると…………・・・・・


私はその後、ローザの人生にも潜入してみた。

やはりローザはイギリスのスパイだった。


そしてオットーを愛していた。

オットーのために命さえ捨てる覚悟を決めていた。


オットーとフーが亡くなってから暫くは、腑抜けのようにじっと家に閉じ籠っていたけれど、さすがに世界の動向を読んでいたスパイだけあって、自由の国アメリカへ渡り、身元を隠してひっそりと生涯を閉じた。

オットーへの想いに支えられて独身を通した。


それなりに小さな幸福も得られたようだったので私も安心した。



                       

また人の人生を重複する旅が続いた。


苦しくても死を選ぶことさえ許されず、ただひたすら人の悲しみ苦しみを知ることのみが課せられていた。


私自身の魂に出会えない時間が長く続いた。


一人の人生を体感する毎に宇宙の懐へ戻る度、微妙に星の位置がズレてきていることに気づき始めた。


私が魂だけの存在になってから、もう何年が過ぎているのだろう…………

何百年?何千年?いや万単位の年数?

既に時間や空間の感覚は全く失っている。


旅の途中で、何度かあの彦星と織姫の逢瀬に出会った。

美しい二人の姿はいっとき私を癒してくれる。


最初に出会ってから既に可也永い時が流れている筈だが、彼等は常に同じ若さと美しさを保っている。


地球上では一年に一度の逢瀬として美談になっているけれど、宇宙時間だと毎日、或いは毎時間の逢瀬である可能性もある。



次に私自身の魂を見つけたのは、江戸時代中期の日本だった。


私は『お雪』という名で遊廓に売られていた。


辛苦を舐めすぎ精神を病んでいたようで、断片的な記憶は通常の人間と違った世界をさ迷うことが多くあった。

そうすることで自分を保っていたのだ。


周囲の者からは狂人と言われ、疎まれていたけれど、その魂は誰よりも純粋で真っすぐだった。



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東北の貧しい農村に生まれた私は、13歳で吉原に売られてきた。


辛いながらも暫くは正常を保っていた。


17歳になったある日、若い侍がたまたまお雪の客になった。


儀衛門という名のその侍は、初めて来た時から、お雪を女郎としてでは無く、一人の人間として大切に扱ってくれた。


いつもただ一緒に話をして一緒に美味しいものを食べ、儀衛門の温かい腕枕でぐっすり眠らせてくれるのだった。


儀衛門はそのうちお雪指名で頻繁に通い詰めるようになり、お雪もまた儀衛門を心待ちするようになった。


時を待たずしてお雪は儀衛門を本気で愛し始めた。


客に本気で惚れることは女郎にとってタブーだったけれど、人間として扱われる経験の皆無だったお雪にとって は、儀衛門こそ自分が望んでいた人間の姿をした初めての男だったのだから、惚れるなと言う方が無理なことだった。


そのうちお雪は、儀衛門以外の客を一切取らなくなった。


儀衛門が話し聞かせてくれるのは、たいてい世間話から始まって世の中の流れについて、それから日本の有り方についてで、時には幕府の批判めいた話に及ぶこともあった。


お雪は儀衛門の話に感化されていき、女郎という自分の仕事に対しても疑問を持つようになっていった。


儀衛門以外の客を取らないお雪が、この仕事の世界で許されるわけも無かったが、仮病を使ったり、密かに外へ逃げ出したりして頑なに拒んだ。


それも通らなくなって殴られたり監禁されたりの罰を受けるようになり始めたある日、いつに無く暗い顔をした儀衛門がやってきた。

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