第25話
Ⅱ【旅】〔輪廻〕p25
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「オットー、大丈夫?
ステージは私がなんとか繋いでおいたわ。
オットーファンのオバさま達はすっかり帰っちゃったけどね」
「ありがとうローザ」
「ねぇオットー……貴方病んでるんでしょ。
医者に見せなきゃ駄目よ」
ローザはこのキャバレーでダンサーをやっている。
俺と同じ30歳のユダヤ人だ。
バカを装っているけれど、時々見せる視線の鋭さは、彼女が只者では無いことを物語っている。
それに気づいているのは俺一人だろう。
そして俺が気づいていることをローザも承知している。
だから二人で居る時は、この時世ではけっこう際どいと思うことでも、暗黙の了解で口にする。
同志という感じの間柄なのだ。
俺の母親は美しいユダヤ人だったが、父親は生粋のドイツ人だった。
両親とも何年か前からユダヤ人を支える地下組織で活動していたが、その中心的立場だった父は、国粋主義者や右翼に目をつけられており、一昨年謎の残る事故で母と共に亡くなった。
俺は母から彫りの深い顔立ち、父から金髪の髪の毛を貰っている。
柔らかい金髪をオールバックにして、白いワイシャツに黒の燕尾服姿でステージに立つと、完璧な美しさだとうっとりしてくれる女性は多い。
本当は俺の『歌』にうっとりしてほしいのだが……
歌うことが俺は何より好きだ。
大学では声楽を学んだし、このキャバレーで歌うちょっと退廃的な風俗歌謡は俺の魂を揺さぶる。
俺に歌が無かったら、生きていられなかっただろう。
特に両親を失ってからは…………
病気持ちだし、身寄りも無いし、エネルギーも空っぽだ。
ローザはそんな俺を姉のように、というより母親のような眼差しで見守ってくれている。
「この店もそろそろ潮時かもしれないわね…………
ここのところ監視の目が可也厳しくなってきてるの知ってるでしょ?
貴方のファン達も来づらくなってきてるみたいね……
私目当てのスケベ親父達も減ってきてるし、外で会っても目を合わせないようにする人だって居るわ。
ユダヤ人の生き難さは今に始まったことじゃ無いけど、これからどんどん深みにハマっていきそうね。
他の仕事を本気で探した方がいいみたいよ」
「俺はもういいよ。
俺に歌以外の何が有るって言うんだい?
此処で野垂れ死ぬさ」
「何言ってんのよ…………
まず身体治さなきゃね…………」
ローザは暫く考え込んでいたが、そのうち呟くように言った。
「フーと一緒に私のアパートへ来ない?
身体が良くなるまで私が面倒見てあげるからさぁ」
「他人と一緒に暮らせる立場かい?」
俺は苦笑いしながらローザをからかった。
ローザの本業はたぶんインテリジェンスオフィサー(スパイ)だと睨んでいるからだ。
ローザはフフンと笑って相手にしなかったけれど、まんざら的外れでも無さそうな表情だった。
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