Ⅱ【旅】〔輪廻〕
第24話
🎠💫🌠💖💕いよいよ輪廻に入ります
Ⅱ 【旅】〔輪廻〕p24
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・・・・・バラードはきつい…………
肝心の最後が尻切れトンボでは救いようが無い。
少し呑み過ぎたようだ。
と言っても俺目当てに夜な夜なこのキャバレーに通ってる女性達にとって、歌などどうでもいいのだろうが。
それ以上に俺自身が、どうでもよくなっている。
物心ついた時から俺を捉えて離さなかった『生きること』への脱力感が、ここのところ特に強くなってきた。
今の俺の人生で、俺が成すべきことは何も無いと、俺の魂が知っている気がする。
そう…俺の魂……
今の俺がこの世に存在する前から連綿と生きていた魂。
そいつが言う。
『今回の人生でお前は何も出来ない』と。
総て虚しい。
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私だ…………
彼は私だわ…………左胸の星印もしっかり有る。
とても不思議な気分だった。
まるでパラレルワールドに踏み込んだようでありながら、二人の自分を同時に感じでいる。
彼の魂を生きていて、それを客観的に見つめる私自身の魂もリアルタイムにあるのだ。
これまでは、潜入した魂と私自身の魂は完全に切り離されて存在していた。
だから潜入している間は自分の魂を意識出来なかった。
彼は、いや私の最初の前世は男性の歌手だったのだ。
1931年、ワイマール(ヴァイマル)時代のドイツ。
ここはキャバレーの楽屋だ。
私である彼はとても弱っている。
消化器系の癌を患っているようだ。
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俺はもう終わりなのか…………?
衿のカラーを緩める。
まだ部屋全体が回転している感覚が続いていた。
ステージで吐いた血が、燕尾服の裾をどす黒くテカらしている。
国民主権のワイマール憲法が制定されたというのに、理念だけが先走りしてユダヤの血をひく我々には寧ろ生き難くなってきている。
何故だ。何故ユダヤ人だけが嫌われるんだ。
類い希な才能やエネルギーを持つユダヤ人に対する嫉妬と恐れ?
キリストは神では無く生身の人間だと説いたユダヤ教への、宗教上の危機感?
基本はそんなところかもしれない……
戦争の敗北や革命さえユダヤ人の責任にされている。メチャクチャだ。
迫害を正当化するこじつけの言い訳でしかない。
我々自身は宗教の違いを容認する寛容さと知性を持っているつもりだ。
何か嫌な予感がする…………
俺が心を開けるのは、この年老いた黒猫のフーだけだ…
「なぁ、フー……」
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第一次世界対戦から第二次世界大戦の間、ドイツに一時訪れた理想に燃える静かな時代。
でも内面で燻っていたものは大きく、ヒットラー誕生を余儀無くされる程不安定な時代だったと聞いている。
傲慢なベルサイユ条約に対する憤怒も絡み、ドイツ全体が鬱積した空気の中で育まれたヒットラーという一人の気の小さい独裁者と、その誕生を許した民衆によって虐げられたユダヤ人というイメージだけクローズアップされているけれど、当時ユダヤ人を迫害していたのはドイツ人だけではなかった筈だ。
確かにナチス、アイシュビッツ、ゲシュタポなどの存在は大きいし異常だ。
しかしユダヤ人を救出しようという意識はありながら、どの国も恐慌を含めた様々な問題が山積みで受け入れ不可能な状態だった。
その為、殆どの国がユダヤ人を迫害する方向へと次第に流されていった。
ユダヤ人は全世界の犠牲者と言ってもいい。
ただその中でも、その意識を変えていく為に、自らの命をかけて尽力した人達が少数ながら存在したことも事実だ。しかも個人が多い。
そういう人が日本人にも居たことを知っている。
それはとても嬉しいことで、救われる思いだった。
「歴史上で一番尊敬する人は?」と聞かれたら、私は名前を上げるのではなく、躊躇わず「そんなふうに信念を貫いた人達、どの時代でも微力から悪い流れを変えてきた人達」とはっきり言える。
私の潔癖な程の正義感は、ここから始まったのだろうか…………?
こんなひどい状態の流れの中で生きて居たことが…………しかも時代の犠牲となる民族の血を受け継いで………
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