第22話
Ⅰ【今はさよなら】p22
俺は、この家の在り方に対する疑問を抑え切れなくなっていた。
親父の滞在期間は何故少ないのか?
菫と言う名の女性はいったい何者なのか?
オフクロの友達だという割にオフクロとの交流が無いのはどういう訳か?
どうして菫さんと親父は菫さん宅であんなに親しげなのか?
そもそも菫さんの家が、俺に懐かしさを感じさせるのは何故なのか?
オフクロが時々、例えようの無いくらい孤独な表情をすることに意味はあるのか?
これらの疑問は、疑問として意識し始めた時から時間と共に更なる様々な細かいquestionやanxietyやexcuseを巻き込んで、どんどん雪だるま式に膨らんでいった。
加速度を付けて膨らんだ雪だるまは、ある日とうとう大爆発を起こした。
抱き続けてきた疑問の総てをぶちまけ、オフクロの在り方を罵り、最後にはダメ押しのように言ってはならないことを付け足してしまった。
「だいたい、リサが死んでからのオフクロは、明るさがわざとらしくてウザッてぇんだよ!」
一昨年二つ下の妹リサを交通事故で失ってからのオフクロは、悲しみをエネルギーに代えて俺を苦しめないよう必死だった。
それは有り難いことだし、俺も感謝している。
でもその為に俺自身もオフクロを悲しませることに怯えて、自分を可也抑えてきたことも事実だ。
むしろ俺の前で泣き喚いてほしいとも思った。
そうすれば俺も総てを曝け出せる。楽になれる。
でもそれをオフクロに求めることの残酷さは重々承知していた。
最後の言葉がどんなにオフクロを傷つけるかも分かっていた。
だが、ビックバーンしてしまった俺を止めることは、俺自身でさえ不可能だった。
オフクロ同様俺も苦しんでいたのだ。
耐えていたのだ。
止まらなくなってしまった俺の、意思とは無関係な罵詈雑言はその後も溢れ出そうともがいていたけれど、かろうじてそれを抑えるだけの理性は残っていた。
オフクロはみるみる血の気を失って顔面蒼白になり、涙さえ凍りついたように青白く固まったまま暫く俺を見つめていたが、その瞳は俺を見ているのでは無く暗い虚空に囚われているのだと分かった。
泣いてしまえば楽だったろうが、凍りついた涙は結局オフクロを癒すこと無く永久凍結された。
俺は俺で自分のしたことに深い罪悪感と劣等感を抱え、それも永久保存された。
オフクロは数日フリーズされたまま能面のように無表情だったが、ようやく意を決したように夕食をとりながら話し始めた。
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